睡蓮の恋・5

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睡蓮の恋・5

 そして、なぜかまた向かい合って食卓を囲んでいる翌日土曜の晩。  今日は和食じゃなくて中華ですけど。夜の飲茶コースですけど。急に誘われたからチュニックにパンツという、めっちゃ普段着ですけど。  せめての抵抗でちょっといいストール巻きましたが、同じラフな普段着でもカットソーにジーンズの課長に負けてる気がするのはどうしてでしょうか。素材の差ですね。くうっ。 「……なんで私、課長と二日連続で夕飯ご一緒してるんでしょうね」 「俺が誘ったからだな。で、食べ物に釣られたんだな」 「だって丁度、中華の気分だったんですよ。どうして私の食べたいものが分かるんですか、なんか仕込んでます?」  課長はくつくつとまた楽しそうに笑ってこっちを見ている。 「いや? よっぽど気が合うって事だな」 「うう、なんか悔しい……これ、食べちゃいますよ」 「小籠包、足りなかったら追加するぞ」 「間に合いますよぅ、ああ、もう、熱いし美味しいし」  お店の人が丁度次のセイロを持ってきた。うわお、海老シュウマイ。透明感のあるプリプリの生地が素敵。  ところで、こちらの華僑の店主さんとも顔見知りらしい……課長、何者? 「お嬢さん、美味しそうに食べるね。おじさん嬉しいよ」 「本当に美味しいです。この湯包(たんぱお)もスープ最高」 「わかる? ゼラチンなんか使ってないから。いやあ、嬉しいなあ!  片桐さん、いい子連れてきてくれたね。小籠湯包、言う子初めてだよ」 「祖母のお友達に中国の方がいらして。少し教わりました」  不思議そうに見る課長と、面白そうに見るお店のおじさんに向かって種明かしをする。 「こんなに美味しくて、形も綺麗。尊敬します。ぜんぶ食べます」  にこにこ笑って言えば、奢りだと青島ビールを出してくれた。やったね。
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