睡蓮の恋・2

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睡蓮の恋・2

 勤めている会社は制服勤務だ。来客もほとんどない、内勤オンリーの営業事務という後方支援に制服が必要かどうかはさておいて、着るものに気を遣わなくていいというのは気楽である。  通勤時には多少はそれっぽい恰好は必要だが、ジーンズで来る人も少なくない。夏にキャミソール一枚さらに足元ビーチサンダルで来ていた子はさすがに人事から苦言を呈されていたが、まあ、普通の常識の範囲であれば問題はない。  だから、このスカートだって別にそこまでおかしいことはないだろう。他の課の女の子が、もっと派手な色を履いてきているのは更衣室で知っている。  ちょっとラブリーでロマンティックだが色味もブルー系で落ち着いているし、通勤着として許容範囲だと思う。  逸脱しているのは、それを身につけるのが「私」ということ。  普段の私の服装は言うなれば、ザ・定番。ごくシンプルなジャケットにカットソー、下はパンツ。色は黒、ベージュ、白、たまにグレー。  季節で素材や丈が多少変わるが、オールシーズンこれだ。スカートなぞ、制服以外で履いた時がない。  そんな私が花柄シフォン。  誰が許しても、私が誰にも見られたくない。似合う似合わないの問題ではなく、ひたすらに着慣れなくて恥ずかしい。  買っちゃったのは勢いもあるけれど、そもそも家で着ようと思ったのよ。 それか、知り合いに出会わなそうな外出の時ね。決して、通勤時に着るためではない。
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