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───六月一日、午後七時二十三分。
春から夏へと変わるために季節が準備を進めている。 そんな季節、夕方から段々と夜へと変わり行く時間が俺にはまだ早く感じてしまう。
俺は足取りを進めて従姉妹のミカ姉が住んでいるアパートへと一人で向かっている最中であった。
「おー……、すっかり遅くなってしまったな。
スマホでも持っていればミカ姉に遅くなるって伝えられたんだけど……」
ミカ姉と俺が住んでいる部屋はこのアパートの2階、6号室だ。
高校生だというのにスマホを持っていない俺はそう言って呟きながら、階段を一段一段と上がっていく。
………スマホ、いわゆる携帯電話。
普通の高校生なら男女問わず誰もが持っているこの時代。 俺はそんな時代を無視して誰もが持つ携帯電話を所持していないのである。
それには一応理由はある。
そう、俺はこういう時こそ連絡をする為に携帯が必要だと思うのだが、実家に住む親も、そして同居しているミカ姉までもが俺に携帯を持たせようとしないのだ。
親や、親代わりが携帯を子供に持たせようとしない。
それが理由であり、そしてその理由が俺には謎の一つでもあるのだ。
特に俺自身も携帯がどうしても欲しいと思うわけでもなく、「なぜだろう?」という疑問はあるものの、親やミカ姉に「携帯を買ってくれ」とは言わないのであった。
しかし、ここ最近は少し俺の思いも変わり始めていた。
そう、その理由が「安海さん」という存在なのだ。
恐らく彼女も普通の高校生同様に携帯を所持しているだろうし、俺が彼女の彼氏でないのは重々承知なのだが一応彼女の「恋愛対象」として俺はいるのだから、彼女の連絡先が知りたいと思うのも当たり前なのである。
(……ていうか、夜とか電話してみたいじゃん。
そこらへんのリア充カップルみたいにさ)
俺の知らない安海さんをもっと知るには、携帯もそのアイテムの一つだと俺は思ったのだ。
そうこうしている内に、俺はアパート2階に着き6号室までポケットに手を入れトボトボと歩いていく。
………と、その時であった。
『ガチャッッ………』
「………ん?」
俺が向かう先、そう目的地である6号室のドアが目の先で開いたのだ。
俺は依然ポケットに手を入れたまま、外からは誰も触らずにドアが開いたのである。
「………………あ」
「………………あ」
目的地の6号室から出てきたのは言わずもがな分かるであろう。
「………ミカ姉」
「…………朋」
ドアノブを持ったまま開いた状態で俺を見て固まるのは、この家の主人でもあるミカ姉であった。
そしていつも通り、家の中ではタンクトップ一枚にジャージのズボン姿。
いったいそんな恥ずかしい部屋着姿で何処に行くというのだろうか?
俺はドアを開けたままのミカ姉と目が合い、少し歩くスピードを上げて向かうのだ。
「どうしたんだよミカ姉、コンビニか?」
「…………………朋……」
「ん? どしたの?」
どうやら少しミカ姉の様子がおかしい。
俺を見るなり、少し顔を伏せて震える声で俺の名前を呼んでいた。
「ミカ姉? どした─────」
ミカ姉の側へと辿り着いたその時であった。
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