七話:中通外直(チュウツウガイチョク)

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────六月十七日、朝、学校。  俺と安海さんが初めて新井さんと会話を交わしてから、もう二週間以上が経っていた。  クラスの中でもレベルの高いギャルである新井さん。  そんな彼女と安海さん、そして俺。    俺と安海さんがお昼休みに休憩している場所で、新井さんが隠れて電話をしていたのがきっかけ。  もし、あの時に新井さんがあそこで電話をしていなければ、今でも俺達と新井さんの関係は“ただのクラスメイト”だったのだろう。  そして、もし“ただのクラスメイト”のままでいれば、………安海さんが停学になる事はなかったのだろう。  そう前日、新井さんの友達であったギャルと喧嘩をし、安海さんは学校を停学になってしまったのだ。  (のち)に、俺も新井さんから事情を聞いて驚いた。  まさか、……まさか安海さんが人を殴るなんて、俺は想像もしていなかったからだ。  (こと)の騒動は、その日の帰りのホームルームで学年全てに報告された。  安海さんは十日間の自宅謹慎、停学。  そして喧嘩相手であるギャルも同じく、十日間の自宅謹慎、停学。  おそらく、事の次の日である今日には、その喧嘩の噂で学校中が大炎上しているであろう。  俺は少し気が沈む中、自分の教室の扉をゆっくりと開けるのであった。 『ガララララ………』  扉を開けた瞬間、やはり俺の目線の先は安海さんの席へと向けられた。  彼女が居るハズもないのは分かっている。  ………でも俺は、自然と真っ直ぐに、目線を安海さんの席へと向けたのだ。  しかし、その視線を向けた先。  そう、安海さんの席だ………。  俺はその光景(・・・・)を見て、扉を開けたまま立ち止まってしまっていた。  安海さんの席に、人影があったからであった。  その、人影とは…………。 「お前そこを退()けって言ってるだろがぁっ!!」 「花子ぉっ、お前昨日の事忘れた訳じゃないでしょうねぇっ。  分かってんならそこを退きなよっ」 「アタシら相当頭にキてるからねぇ!?  早く退けよっっ」 「やだぁっ!! 絶対にここを退かないっ!  みんながどこかに行くまで退かないもんっ!  私がアズミンを守るんだからっっ」  そう、教室の扉を開け俺の視界へと飛び込んできたのは、安海さんの机に体を伏せ、必死に叫んでいる新井さんの姿であったのだ。  そして、その机に伏せている新井さんの周りには、安海さんと同じく、停学になってしまったギャルの友達三人が新井さんと対抗(たいこう)をしていた。  俺はその状況を見て、一目(ひとめ)でどういう状況なのかが解ってしまった。  ギャル達は昨日の事件を兼ねて、安海さんの私有物にイタズラをしようとしたのであろう。  そして、イタズラをされぬよう新井さんが守っているのであろう。 教室に居る周りの生徒は、俺と同じく驚いて見ている人が多かった。  無理もない、だってそのギャルの友達三人は、昨日まで新井さんとも友達であった人達であるからだ。  大半の生徒は事件の事を詳しくは知らない。  なぜ安海さんとギャルが喧嘩になったのか、なぜ新井さんがこんな事になっているのか。  しかし、俺は知っている。  全ての事情を俺は知っているのだ。  だからこそ俺は、その目の前で起きている光景に驚き(・・)、そして黙って見ている(・・・・・・・)事しかできなかったんだ。  そう、新井さんの………為に。  あの新井さん(・・・・・・)が頑張っている。  自分に嘘をつき、周りに嘘をつき、全てから逃げ回っていた彼女が“安海さん(ともだち)”を守ろうとしている。  そんな新井さんの行動に、俺は驚き、そして見守っていたのだ。
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