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「少しだけ呑み過ぎたの。でも、すぐに醒めるから。いや、もう醒めた」
ではまた、と付け加えて、逆に奈津子の手を引っ張るようにして駅の方角へと足を踏み出す。『また』はもちろん、同僚だしそのうち会社内でまた会いましょうね、という意味である。
こんなところで会うとは思わなかった。まさかこれも、わたしのあとを尾行して、出てくるタイミングを見計らっていたわけではないだろうね?
正直言うと、会社の中でだってもう会いたくない。
『嫌い』だなんて、悪口だ。困り果てたとはいえ、別の拒否の言葉があったはず。最低の悪口を浴びせてしまった当人に、会わせる顔なんてない。
彼は、わたしたちの前に立ちふさがるように出た。
「オレが送る。もう遅いし、もしものときのために男のほうがいいよ」
もしものときに襲われるのは、わたしではなくて君の可能性が高い。
などと、冗談でも言えるわけがない。もしかしたら、田端くんのほうだって、自身の外見にコンプレックスを抱いていないとは言いきれない。
「田端くん、御園生のこと本気? どこが好きなの?」
何て言って断ろうかと悩むわたしの横で、奈津子が声を発した。驚いた。
こちとら、この場から早く立ち去りたい思いでいっぱいなのに、話を長引かせようとするんじゃない。
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