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「御園生さん、今上がり!?」
エントランスをまもなく抜けきるというところで、彼はさも偶然といった雰囲気で声をかけてくる。
エレベーターから駆け寄ってきた彼は、息を弾ませながら肩を寄せた。
「オレも今終わったとこ! お腹空いたぁ。ねぇ、よかったら一緒に何か食べに行かない?」
淡いピンクと白のストライプのシャツは、イチゴミルクを思い起こさせる。そんなファンシーな出で立ちに負けないくらいの、愛らしい笑顔を嫌みなく浮かべる成人男性を、わたしはリアルで他に知らない。
しらじらしい。本当にしらじらしい。
でも、その透明な天使感に、わたしの反抗する気持ちはスルスルと萎みかけてしまう。
わたしだけじゃない。この会社で働く女子の誰もが、彼の笑顔としぐさに脳ミソをとろけさせて、思考回路を腑抜けにしてしまうのだ。
田端 将太。入社二年目にして、企画部のホープ。部署は違うけども同期入社であるわたしを、最近、困らせている男。
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