北町奉行所の場

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「そちを呼んだのは(ほか)でもない。 先般の、我が北町奉行所と南町奉行所の同心たちの(いさか)いについてじゃ。 厄介なことに……御老中のお耳にも入ってしもうてな」 町奉行所は、御公儀(江戸幕府)の重鎮「老中」の管轄下にある。 老中は、御公儀の中では「公方(くぼう)(将軍)様」「大老」に次いでの御役目だが、大老が有事の際に置かれる臨時職のため、平時の際に公方様に次ぐ御役目となるのは老中である。 つまり、公方様の実質的な「補佐役」は老中なのだ。だから、一介の町奉行所に勤める役人にとって「御老中」は雲の上のお人である。 「南町の御奉行と共に、御老中に呼び出されてな。このままでは、御用にも差し(さわ)りが出るやもしれぬゆえ、今のうちになんとかせよ、というお達しじゃ」 ……やはり、そうであったか。 「年番方を(つかまつ)る、佐久間の不徳の致すところにてござりまする」 再び、彦左衛門は平伏した。
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