南町奉行所の場

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富多(とみた) 能登守(のとのかみ)様、年番方与力 松波 源兵衛にてござりまする」 座敷に入った源兵衛は平伏した。 「おお、松波。此度(こたび)は忙しいところ呼び立てして、かたじけのうござった……(おもて)を上げよ」 南町奉行の富多 能登守は鷹揚に云った。 「そちを呼んだのは(ほか)でもない。 先般の、我が南町奉行所と北町奉行所の同心たちの(いさか)いについてじゃ。 厄介なことに……御老中のお耳にも入ってしもうてな」 富多 能登守の顔が曇った。 「北町の御奉行と共に、御老中に呼び出されてな。このままでは、御用にも差し(さわ)りが出るやもしれぬゆえ、今のうちになんとかせよ、というお達しじゃ」 ……やはり、そうであったか。 「年番方を(つかまつ)る、松波の不徳の致すところにてござりまする」 再び、源兵衛は平伏した。
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