南町奉行所の場

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「そう思うのであらばな、松波。 そちの力を、()()とも借りとうござることがあるのじゃが」 御奉行の方からとはめずらしい。 大概(たいがい)「松波、良きに計らえ」と丸投げ……ではなく「お任せ」になるのに。 「この松波 源兵衛でお役に立てるのであらば、なんなりとお申しつけくだされ」 源兵衛は(おもて)を上げた。 「よう云うた、松波。 実は、北町の御奉行とも話し()うたんじゃが」 互いの与力・同心同士の、ろくに口もきかぬほどの犬猿の仲は目に余るほどだというのに、それらを()べる奉行同士の仲は、意外なことにさほどでもないのだな、と源兵衛は思った。 「だれかが先陣を切って『親戚付き合い』をする間柄になれば手っ取り早いと思うてな。それも、みなの『手本』となる御役目の者にな」 富多 能登守は、ぐっ、と身を乗り出した。 「どうだ、松波。 ……そちの(せがれ)を、北町の年番方与力の娘と縁組させてみぬか」
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