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二週間ほど前、同級生の男の子同士がキスをしているのを見てしまった。
あれは、玉上君と中大路くん。玉上君はあまり目立たないけど、顔も体もかなり整っている隠れイケメン。ちょっとヲタク臭のするのが文字通り玉に瑕なんだろうけど、私にとってはむしろ良いアクセント。中大路君はどっちかと言わずとも可愛い系で、男女問わず人気者。玉上君と同じ隣の組で、ちょっと前から仲がよかったみたいだけど、まさかそこまでの仲だとは……
そういえば、高松さんは玉上君の幼馴染だっけ。今度詳しいことを聞いてみようかな。
とにかく、そのせいで、創作意欲がもう、沸いて止まないので、机に向かって、ノートに欲望を吐き出していく。
じめっとした夏の放課後。蒸し暑い校舎裏。
アキの小動物のような眼に誘われ、玲の中で欲望が暴れだし、理性を吹き飛ばす。
抑えきれなくなった玲の感情は、アキの、男のものとは思えないほど艶めかしい唇を貪ろうと、襲いかかり……
『リリリリ。リリリリ。リリリリ。』
……はっ!
唐突なケータイの音に、ビクリと、思考と筆が止まる。目覚まし時計みたいなベル音が、心臓に悪い。
誰からだろう……と思ったら、高松さんだった。友達になってから、一日一回はかかってくるものだから、まあ、そうかなとは思っていたけれど。
「もしもし、」
「もっ、もしもしっ! 腐頭さん!」
この子はいっつも、特に電話だと、声が上ずっている。きっと、人と話すのに、畏まっちゃうタイプなんだろう。
「どうかしたの?」
ケータイのマイクに向かって、緊張をほぐすように、優しく語り掛ける。
「え、えぇっとぉ……腐頭さんの声が聞きたくなった……から?」
「恋人かっ!」
まさかの答えに、つい声が出てしまう。
「ご、ごめん……」
「いや、今のただのツッコミだよ?」
予想外にしょんぼりする高松さんに、慌てて訂正を入れる。
「そっかぁ。良かったぁ……ふふふ。」
落ち込んだと思ったら、今度は楽しそうな笑い声……忙しい人だなぁ。
そもそも、電話ってこう、意味もなくするものだろうか。なんかこう、用件を伝えたり、意見をすり合わせたり、そんなことをするものだと思うのだけれど……
「それじゃあ。また明日ね。」
「え、もう切るの?」
何一つ身のある話をしてないんですがー?
「うん。腐頭さんの声聞けたし。」
「そ、そう……」
いったい何のための電話だったのだろう。あ、声を聞くためか。いや、やっぱりしっくりこない……
「腐頭さん。」
名前を呼ばれる。
「由美で良いわ。友達でしょ?」
「わかった。由美、友達になってくれて、ありがとう。」
「そんなお礼言われたのは初めてよ。でも、私も、ありがと。」
電話が切れて、ケータイはさっきの温かさの欠片も残さず、沈黙するのみになる。
確かに、繫がっているというのは、それだけで居心地の良いものかもしれない。
それに、さっき、私の声が聞きたかったからって、本当に高松さんには、私しかいないんだって思う。それを重たいと思うこともあるけれど、だからこそ温かくって、ちょっと新鮮。
――彼女になら、もしかしたら、本当の私を委ねることが出来るかもしれない。
そういえば、あの日、二人が去った後、校舎裏にもう一人いたような……
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