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「異世界転移して不老不死になったことだし無双してやるぜ!」
はい。そんな訳で洞窟です。
片手剣と盾、防具無しという初心者丸出し格好でゴブリンの巣穴の前に立っている少年がいた。彼の名前は、峨々秀夫。
峨々は、ある日突然、異世界の女神によって転移させられ、この魔物が蔓延る暗黒の大陸に連れてこられた。
現実世界では『学生』だった峨々であるが、現在の彼の役職は『冒険者』。
世界中を旅して回ってお金になりそうな物を見つけては店に売る。若しくは、賞金首を捕まえて役所に届けて路銀を稼ぐなどで営んでいる者。まあ、要するに冒険者と名乗る『無職』。それが峨々秀夫の立場であった。
「悲しいぜ。日本で平穏に生活していただけの俺がなんでこんな目に…………」
ぶつくさ呟きながら巣穴に入る峨々。
警戒心無し。対策無し。そんな状態で正面突破すれば、当然巣穴にいたゴブリン達は、峨々に気付くや否や攻撃をするだろう。
というか、実際にされていた。
「ニンゲン、コロス!」
「コロセ! コロセ!」
ゴブリンは、岩をくっつけただけの斧、刃こぼれしたナイフなどを手にして一斉に峨々に襲い掛かる。武器は貧弱だが敵の数は多く、畳み込まれたらひとたまりもない。
しかし峨々は、それを避けることも防ぐこともせず、ノーガードで全ての攻撃をその身に受けたのである。
「あー面倒臭い」
峨々は、気怠げな表情で腰からナイフを取り出し、一番近くに居たゴブリンの頭を突き刺した。
的確に脳天を貫かれたゴブリンは、悲鳴を上げる暇もなく絶命する。
「おらおら。お前ら血祭りに上げてやるぜ〜」
「ナ、ナンダコイツ」
「チマミレナノハオマエジャネエカ」
全身から血を流しながら、巣穴を進んでいく峨々。
そして不思議なことが起こる。先程出来たばかりの峨々の傷が、瞬く間に塞がっていき出血が止まったのだ。
「ゲゲッ!」
「バ、バケモンダ!」
「誰が化け物だ。コイツめ、人様をなんだと思ってやがる」
苛立った峨々は、自分を『化け物』呼ばわりしたゴブリンに斬りかかる。
峨々の歩みは止まらない。大勢のゴブリンが立ちはだかろうとも、チート能力『不老不死』を頼りに究極の力技を決行していった。
やがて、峨々は巣穴の最奥らしき場所に到着する。ここまでで、既に二十匹近くのゴブリンを退治しただろう。
最奥地には、大柄のゴブリンが岩の上に腰掛けていた。どうやらこの巣穴のボスのようだ。
ボスは、部屋に現れた峨々の姿を発見すると、敵愾心を露わにした表情で岩の上から飛び降りた。
「貴様ダナ。俺ノ住処ニ土足デ入リ込ンダ鼠ハ」
「あ、なんかボスっぽい奴。じゃあ、この辺が巣の最奥かな?」
「虫唾ガ走ル奴ダ。命知ラズノ愚カ者ニハ死ヲモッテ償ワセテヤル」
「確かに俺ほど命知らずな奴もいないと思うぜ。まあ、これからもっと死ぬようなことするからお前はそこで見てろよ」
「ナニ?」
ボスが怪訝な表情を浮かべた次の瞬間。峨々は、羽織っていたローブを華麗に脱ぎ捨てた。
そしてローブの下には、大量の爆薬が括り付けられた峨々の胴体があったのである。
ボスの顔が一転。驚愕で目が見開いた表情と化した。
「馬鹿ナ⁉︎」
「ダーイナマイツッ! という訳で今世はこれまで! 皆さん、また来世でお会いしましょう! さようならっ!」
前口上を終えた峨々の手には、謎のボタンがあった。
彼が「ポチッ」ボタンを押した直後。
耳を劈く激しい轟音が鳴る。
ゴブリンの巣穴は山を揺るがす規模の大爆発によって、あっという間に消滅した。洞窟どころか、最早山の地形すら変わってしまっている。
そして十分後。
峨々秀夫は、石と土を掻き分けてようやく地上へ顔を出すことに成功した。
「あー怠い。今日も斬り過ぎて全身血塗れだしさぁ。全く、異世界生活も楽じゃないぜ」
帰ろ、と一言呟き、峨々は帰路へ着く。彼が一番に望んでいたのは、サッサとシャワーを浴びて血を落としたいということだった。
地形が変わってしまったので若干道筋もおかしくなっていたが、そこは適当に試行錯誤していくようだ。
…………さて、どうだっただろうか? これが峨々秀夫の異世界生活風景である。
目的もなくこの世界に連れてこられ、死ぬこともなくなった血塗れの彼の人生は、一体この先、どんな運命が待ち受けているのか?
それは、まだ誰にもわからないことであった。
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