第一章

1/298
377人が本棚に入れています
本棚に追加
/652ページ

第一章

 1 神納木理希(こうのきことき)は普段より2時間ほど早く起床すると、制服に着替えて朝食をとっていた。 今日は高校生になって初めての文化祭の1日目。 これまで無遅刻・無欠席。成績は中の中ぐらいで勉強は嫌いではないけれど、2日間祭りだけで授業が終わるというのは楽で嬉しい。 クラスの出し物が『劇』に決まったときは冷や汗が出たが、目立ちたがりが多かったのが(さいわ)いして、無事裏方の大道具係になることができた。 そんな感じで『目立たず、騒がず』をモットーに、無難な高校生活を送っている。 父はまだ寝ているのだろう。早々に食事を済ませると母に「今日は遅くなるかも」と伝えて家を出た。 自転車のカゴにペチャンコなカバンを放り込み、一路山の上の学校を目指す。 最後の準備があるのでいつもより早く登校することになったけど、人前で演技をすることに比べれば苦でもなんでもない。 なんとなく鼻歌をうたいながら、川沿いの道を進む。 最近雨は降っていないのに、川面(かわも)をみるとかなり増水していることが分かった。 『ダムが放流でもしているのか?』 川の両側にあるコンクリートの沈下式遊歩道は、今は(にご)った水の下で全く見えない。 しばらくすると、対岸の道を歩いているクラスメイトの乙瀬瑠楓(おとせるか)の後ろ姿が見えた。 その名前から、男子生徒の間で誰が彼女にするか、秘密裏(ひみつり)に競争が行われていたりする。ちなみに僕…、俺も誘われたけど、セクハラっぽい気がしたので参加していない。 『なんでこんな時間にいるんだよ…』 ヒロイン役だから早く学校に行く必要はなかったはず。学級委員として、作業が遅れている班の手伝いでもするつもりなのだろうか。
/652ページ

最初のコメントを投稿しよう!