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少し先にある橋で瑠楓のいる対岸に渡ることになる。このままの速さだと、タイミング的にバッチリっぽい。
『話しかけられたら面倒くさいなぁ…』
水泳部では全国大会に出場するほどのスポーツ万能。真面目で有名な才女だから、まかり間違っても「後ろに乗せて」とは言わないだろうけど。
クラスの男子に会話している所を見られたら、ややこしいことになるかもしれない。
橋から先は学校まで一本道。向こうは歩きでこちらは自転車となると、彼女を先に行かせてやり過ごすという選択肢はない。
理希はペダルを強く踏んだ。グングンとスピードを増していく。
緩やかな坂を一気に上がると、車一台がやっと通れるような狭い橋に向かってハンドルを右に強く切った。
スピードが出過ぎていたのか、予想以上に大きく左にふくらみ、後輪が横に滑る。わずかに遅れて何かに乗り上げたような小さな衝撃とともに、パンッ!という乾いた音が響いた。
『やってしまった…』
理希は急に重くなったペダルから足を離すと、ハンドルを握ったまま自転車から飛び降りた。数歩歩いて勢いを殺すと立ち止まり、すぐに後輪へと目を向けた。
「これは…、一度家に戻るか…」
派手にパンクしたタイヤを恨めし気に見ながら呟いた。
今やただの荷物に成り下がった自転車を引きずりながら、山道を登る勇気はない。
『いや、いっその事この場に放置して、帰りに拾うのもアリか?』と、思考を巡らしていると、背後からネコの鳴き声がしたような気がした。
一気に血の気が引く。
『ま、まさか、轢いたわけじゃないよね…』
恐る恐る振り返り、衝撃を感じた辺りを確かめる。
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