第一章

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『なんだ、石?』 アスファルトの上に転がる小石が目に入った。 「ニャー」 安堵(あんど)するのと同時にもう一度ネコの声がした。今度は間違いない。 鳴き声のした方向、橋の上から川の上流へと目を()らす。 増水し流れが速くなった川に翻弄(ほんろう)されながら、ダンボール箱のようなものが流れてくるのが見えた。 今にも沈みそうな箱の中で、小さな影が動いている。 考えるよりも先に体が動いていた。 橋の入り口の横にある、遊歩道へ(つな)がる階段へと走りよる。支えを失って倒れる自転車が、視界の(はし)で異様なほどゆっくり見えた。 一段飛ばしで階段を駆け下り、水面ギリギリの段で急停止する。 両膝をついて上半身を川側にのり出すと、橋の下を(のぞ)くようにして川上を確認した。 『よし、ついてる。こっちにこい』 上手い具合にダンボール箱がこちらに向かって流れてくる。 『思ったより速いなぁ…』 川面(かわも)を間近に見て、予想以上に流れが激しいことに気が付いた。
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