第一章

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バランスを崩さないように両脚に力を入れながら、理希は右腕を伸ばす。 「あっ!くそっ!!」 思わず声が漏れた。直前でダンボール箱が橋台(きょうだい)に当たり、反動で川の中央へと流れていく。 「届け…」 上半身の支えにしている左腕を川側に斜めに倒し、右腕を限界まで伸ばした。 指先が箱の(はし)に触れた。 「やった!」 そう思った瞬間、箱の中から黒い影が上に向かって飛び出した。 直後、後頭部に衝撃が走る。 「うわっ!なんだ?」 誰かに突き飛ばされたように感じた理希は振り返って確かめようとしたが、(むな)しい努力に終わった。 頭から水面に落下すると、ダンボール箱を道ずれに川の中へと引きずりこまれていた。 川底にある岩だろうか、身体を何度も打ち付けながら、押し流されていく。 『あぁ…、これはもうダメかな…』 だんだんと痛みを感じなくなっていった。 乙瀬だろうか。 叫び声が聞こえたけど、途切(とぎ)れかけた意識の中、意味までは理解できなかった。
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