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プロローグ
鬱蒼とした森に囲まれ、荒れ果てた遺跡の真ん中で神納木理希は頭を抱えていた。
ようやく地上に出て、よく助かったものだと関心していたところだったのに。
前世の最後から立て続けに何度もこんな酷い状況に置かれるなんて。
誰かが意地悪をしているのだろうか?
おみくじを引けば小吉か末吉。コンビニくじなら良くてE賞。
これまでは中の下くらいの運の持ち主だと思っていたけど、認識を改める必要がありそうだ。
『前門の狼。後門の虎』という故事成語がまさに相応しい状況といえる。
眼前に佇んでいる漆黒の魔王へと、理希は目を向けた。
『もうこれで終わりだ』とでも言いたいのだろう。
禍々しかった気配は霧散し、魔王なのに長閑な雰囲気を漂わせているのが、滑稽に思えた。
『ご主人ご主人…』
突然、理希の頭の中に使い魔の声が響いた。
『…どうした?』
逆転のアイデアでもあるのか?と、一瞬期待する。
『オオカミとトラが逆ニャのニャ』
『逆……』
『……』
理希は咳払いをすると、覚えたての魔法の一覧を確認していく。
だいたい、魔王なんてものは物語のクライマックスに登場するもんなんじゃないのか?
『ご主人ご主人…』
『うるさい。呼びもしてないのに出てくるな!』
『うニャ! ひどいニャ…』
転生前に女神は言った。「あなたなら運命を変えられるかもしれない」と。
遥か上空から刻々と迫ってくる、世界を滅ぼすだろう巨大な隕石を背にした理希には、とてもそうは思えなかった。
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