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第十五章 お父さんの話
アキヒトの父親は、今から三年と少し前に亡くなっている。
彼が高校二年生、弟のカイトくんが中学二年生のときだった。
出張先のホテルでの突然死だったらしい。
発見された時はもう手遅れだった。
「それはそれは、お母様も大変でしたね。」
ハルカは言う。
ありがたいことに彼は、健康と金銭面に関しては苦労していない。
生まれた家を呪ったこともあるが、そこだけは感謝していた。
「この子達が頑張ってくれたからね。
何とかやって来れたわ。」
アキヒトは高校を卒業したあとで、
奨学金制度のある美容師専門学校へ入学し、手に職を付けた。
卒業した後は独立した上に、実家に毎月仕送りまでしているという。
高校生の時は、パートを掛け持ちする母と中学生の弟のために
毎日の食事と弁当を作っていたらしい。
「すごい、アッキー。カッコええわ。」
思わず言うと、アキヒトの顔が赤くなった。
「自慢の息子よ。」
そういうお母さんもいい笑顔で、ハルカはうれしくなった。
いい親子だ。
「お母様が素敵だからですね。」
「やだ、ハルカさんたら。」
和やかに話していると、
「口は上手いんだな。」とまた矢のような鋭い言葉が飛んできた。
「カイト!!」
アキヒトとお母さんが同時に怒った口調で言う、
すると、彼は黙ったまま
自分の部屋へと逃げるように去っていった。
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