第九章 先生への相談

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第九章 先生への相談

「アッキー、それは本当に本気でハルカに惚れたんやな。」 店を閉めたあと、亀井先生に相談に行ったアキヒトは、 いつもの月膳で話を聞いてもらっていた。 こんな時でもここのご飯は美味しい。 「アイツの実家も過去も受けいれたんやろ?」 「はい。」 本人にとってつらい過去も、彼の歴史の一つだった。 少しでも自分の力で塗り替えられたらと思う。 「ねえ、先生は将来どうするつもりとか決めてるんですか?」 亀井先生と、恋人の佐藤さんは二人とも今年で33歳だ。 アキヒトよりちょうど一回り年上になる。 付き合って2年目で 男同士のカップルと言う事でも先輩になるわけで、 二人の動向を参考にしようと思って アキヒトは質問した。 「俺はソウと一緒に暮らしたいんやけど、 なかなかうんと言ってくれへんからな。」 亀井先生は考え込みながら口を開いた。 「同性パートナーシップ宣言も結局 権利はあるけど夫婦として認められるわけやあらへん。 まだ世の中は同性カップルには厳しいな。」 「そうですか。」 アキヒトは、ハイボールの泡を見つめながら返事をした。 「まだ片方が性同一障害と診断されて、性転換することが出来たら 正式に入籍できるようにはなるけど、結構ハードルは高いで。 そもそも性別変える手術なんて、 下手したら10人に一人は死ぬような大手術や。 当たり前の話やけど、手術したら元の体には戻せんしな。」 テレビでよく見る性転換も、簡単なものではないらしい。 ホルモン剤による副作用で命を落とす事もあるし 精神的疾患を患う人も多いらしい。 そんな事、知らなかったと アキヒトは今更ながら自分の無知が恥ずかしかった。 「でもな、俺はずっとソウと一緒にいたいと思ってるし ソウ以上に惚れられる相手は現れへんと信じてんねん。 今日と同じ明日が来るように努力し続けることが 目標かも知れへんな。」 亀井先生の言う事は彼の顔よりもカッコいい。 アキヒトはため息をついた。 「先生カッコよすぎます。惚れそうです。」 思わず言うと、佐藤さんが近づいてくる。 「小島くん、蓮は僕のもんやからやらへんよ。」 にっこりと笑いながら言われた。 この二人には敵わない。 アキヒトは内心、降参の白旗を上げた。
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