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「お邪魔するねー♪」
その後を慌てて追いかけて、廊下の突き当たり、リビングに通じるドアを開ける。
「う、うん。どーぞ」
するっ、と遠慮なく入っていく。そもそも彼女に礼儀とかそんなものは求めていないけれど。
「うわぁー、結構広いねー。一人暮らしだよね?」
2人掛けソファに、それに合わせたテーブル、テレビ。僕はあまり物欲がないので、他にはゴミ箱ぐらいしかなかったが、それらが置かれていても窮屈に感じられない程度には広い。
「一人暮らしなんだけどね、これぐらいは揃えとけって親が揃えてくれたんだよ。過ごしやすいのはいいんだけど、持ち腐れてるよね」
過保護な親だ。今は学生で甘えてる身だから何も言えないけど、仕事について余裕ができたら、いつか恩返ししたい、と思っている。
「そんなことないよ?ほら、一緒に座れる」
立ちっぱなしの僕の袖を小さく握って、彼女はポスンとソファに座った。
くいっくいっと袖を引っ張って何か言いたげに見つめてくる。隣に座れということなのだろう。僕はギクシャクと座る。
……満足そうだ。
ふと、机の上に置いてあったゴーグルを手に取る。
「やっててくれたんだ?」
「うん、一応ね。まだ始められてないけど」
苦笑気味に言う。普段からコンピュータはあまり使わない方だったが、自分がここまで機械音痴だとは思わなかった。準備に10分もかかったなんて言えない。
「それなら今からやってみよーよ!」
「へっ!?」
「今ならあたしがいるからそんなに苦戦しないと思うよ?」
「た、たしかに……」
情けない話だけど、このままでは一向に進まなさそうだし、その方がいいのかもしれない。
「でも」
「ん?」
「いや、なんでもない」
せっかくの彼女との時間なのに、ゲームをするなんてもったいない……、なんて恥ずかしくて言えなかった。
ちょっと、惜しいな。
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