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その時だ。
部室の引き戸がガラリと開かれた。
一瞬ビクッてなる僕ら二人。
やって来たのは怪獣写真同好会顧問のムラマツ先生だった。
「おや君達二人だけかね?」
「先輩方は外へ撮影に行ってますよ」
トキノンは焦る事も無く平然と答える。
こういう所は凄いよな~。
そんな眼差しをトキノンに向ける僕。
そして、ムラマツ先生は困った表情を見せた。
何かあったのだろうか?
「そうか…。
君達は確か二人ともブリーダーズ資格者だったね。
君はグドンを育成しているかね?」
地底怪獣グドン!!
見た目は、直立二足歩行出来る毛の無い狼と昆虫を足して2で割り、全身を黄土色した見た目。
どちらかと言えば虫よりかな…。
顔つきは赤い目をした犬みたいで、ちょっと凛々しいぞ。
頭頂部には細長く黒いツノが二本突き出てて。
胸部と背中全体からシッポと腕にかけ大きなトゲがポツポツ生えてる。
両手はムチ状で、コレを振り回して攻撃したり、震度させ地面を掻き分け地底内を移動しているようだ。
そして、コレはとてもとても有名な話しなのだが…。
ある怪獣が大好物なんだ。
ムラマツ先生に質問された事に僕は返す。
「あ~僕は育成してないですね」
ムラマツ先生は次にトキノンへと向き直ると同じ質問をした。
「キミは?どうかね?グドン?」
「私…育ててますよ…グドン」
「そうか…。
…………………。
なら二人とも…。
少し手伝いをしてくれないかね?」
「「………………」」
断るのも何か悪い気がして、僕らは先生の手伝いをする事になった。
僕らは部室を出て廊下を歩く。
不意に先生が質問してきた。
「君達、ツインテールは好きかね?」
髪型のツインテールしか知らず。
コレが怪獣の名前だと認識していない人が聞いたら、セクハラだと思うだろうギリギリの質問だな~。
古代怪獣ツインテール。
名古屋城の金のシャチホコって見た事ある?
あれの魚の部分のディテールを、全て虫に寄せるとツインテールになるよ。
色はザ・土色って程の全身が土色で…。
顔は鼻と髪が無い人の顔に近く、目は分度器逆さまにしたの?って位に座っている。
口は左右にデカく大きくトゲ歯なんだ。
その顔と頭の部分が地面側にあり、胴体部分は地面から離れて垂直に反り立っている。
人で例えたら、まず腹這いになり首から下を垂直に空へと反らした格好さ。
尻尾の部分がムカデのような長い二股の触角になっていて、地面と接地している腹側の部分から尻尾までにびっしりと小さなトゲが無数に生えている。
そして、コレはとてもとても有名な話しなのだが…。
なんとエビのような味なんだ。
「ハイ!大好きです!!」
「私は苦手です」
僕とトキノンの答えは真っ二つに分かれる。
「えっ!?どうしてっ!?」
「どうしてって…。
あの顔と、虫に近い造形と、触角と…。
特にあのびっしり生えてる無数のトゲが苦手…」
トキノン…それ…。
ツインテールの全部じゃないか…。
ムラマツ先生は話しを続ける。
「私はね、怪獣の中でツインテールが一番好きなんだ。
あの愛嬌ある顔、体型、行動、味も含めて全てが大好きなんだ」
ツインテールは確かに食用として、人にも食べられている。
味は濃厚なエビのような味で。
僕も大好きだ。
「昨日の祝日の事だ。
私が育てている怪獣の為に、久しぶりに素材クエストを請け負う事にした。
そうしたら、向かって来る怪獣達の中にツインテールが二匹いたのだよ」
「どうやらその二匹はツガイのようで…。
忍びないのでツインテール以外の怪獣から先ずは倒していき、残るはそのツガイの二匹だけとなった時だ。
ツインテール達が繁殖行動を始めた」
「ツインテールの繁殖行動はね。
まるでハートを描くように顔同士近づけ、互いのお尻の模様部分を密着させ触手を絡め合い、そして…」
僕は先生の説明を頭の中で想像してしまい物凄い後悔した。
想像してご覧!
ツインテール同士の濃厚なキスシーンと絡みを…。
「…うっぷ…!」
「先生!!
トキノさんが具合悪くなってるからやめて下さい」
トキノンも頭の中で想像してしまったようだ。
御愁傷様。
「ああ、すまない…。
私とした事がつい…。
なので仕方なく産卵をするまで待つ事にしたんだが…。
いくら待っても産卵行動をとらない」
「繁殖行動から産卵までの期間が長いんじゃ無いんですか?」
「それは無い。
私の読んだ論文からは、繁殖行動から2時間もしない内に産卵を始めているのが確認されている。
どうにも討伐を長々と躊躇っていると、なんだか可哀想になってきてね…。
だが、怪獣ブリーダーズとしては討伐はしなければならない。
ならばせめてグドンの血肉にでもと思ってね…」
先生のその説明からトキノンはある結論を確認する。
「あの…それは……つまり…。
私のグドンに、そのツインテール達を食べさせようという事ですか?」
「そうだが…」
そうなのだグドンはツインテールが大好物なんだ。
とてもとてもイヤそうな顔をするトキノン。
察して先生はこうつけ加えた。
「ただでとは言わん。
私の持ってる素材カプセルを君達に譲ろう」
そう言われても露骨にイヤそうな顔を続けるトキノン。
それを更に察するムラマツ先生。
「部活動内内申点は確実に上がる!!
どうかね?」
「分かりました。お手伝いします」
トキノーーーン!手の平返すの早や!!
あっ!僕こういう状況なんていうのかネットで見た事あるよ。
即堕ち2コマだコレ…。
「では靴に履き替えて正門へ集合してくれ。
私は少し準備がある」
僕とトキノンは、靴へ履き替え正門で先生を待つ。
そして、ムラマツ先生のベータカプセルを使って荒野へと転送。
その荒野の先に、件のツインテール達はいた。
「もう産卵してるんじゃないんですか?」
「イヤ、論文で見たような状況にはなっていない。
体も両方とも全体的に膨らみふくよかなままだ。
産卵はまだしていないようだ」
トキノンは一つため息をつくと、仕方なく…。
「グドン…おいで…」
自らのベータカプセルでグドンを呼び出し巨大化させる。
そしてメガネ型ヘッドギアを装着。
僕と先生も自らのメガネを装着する。
このメガネは複数の衛星カメラとリンクしていて、俯瞰視点や別角度からの様々な視点から怪獣達を捉える事が出来るんだ。
Σ「……!?」
グドンはツインテールを見つけた事でヨダレをタラ~と一筋垂らす。
よっぽどツインテールが大好きなのだろう。
準備を終えたトキノンは、一つため息を吐くとグドンへと命令する。
「グドン!!
ツインテール食べて……ヨシっ!!」
そう命じられたグドンはまるでお預けを食らっていた犬のように大ハシャぎ。
「グゥワォオオ~ーーーンン…」
雄叫びを高らかにあげ、ムチ状の両手を地面へと激しくΣバシンΣバシン何度も打ちならし。
土煙が柱のように空へ舞い立ち、その喜びを全身で表現する。
そんなグドンに気づいたツインテール達はなんと!!
「グァァァ~ン~」
「グワヮヮグァァァ~ン~」
二匹は鐘のような鳴き声を一斉に上げ。
そして、一匹のツインテールが…。
なんとグドンへとイキナリ全速力で猛突進!!!!
「えっ?なん?ちょっ!ちょっ!まっ!」
そして!!
尻尾を左右へと小刻み振り回しタイミングを取り…。
「えっ!?まって!まって!!!!!」
空高くへ大きくジャーンプ!!
ツインテールは自らの彼女を守る為なんだろう!
なんと自らの天敵たるグドンへと飛びかかったのだ!!
ツインテールの必殺技!!
フライングバイトだ!!!!!!!
Σバドゥーーー~ーーーン!!!
アノ顔面からグドンのボディへ雪崩れ式に突っ込む!!!
まるで、自分から食べられに行っているようだ。
イキナリ体当たりされ吹っ飛ばされるグドン。
「キイャァャャアアーー~ーんん……!!」
怪獣の鳴き声では無い、トキノンの悲鳴である!!
この攻撃で誰が一番驚いたって…。
トキノンが一番驚いたのだ!!
これには僕もムラマツ先生もビックリ!!
そして、卒倒し気絶するトキノン!!
いったい何があったのか!?
トキノンのメガネの設定を良くみたら…。
「あっ!!
トキノンのメガネの視点設定が怪獣視点になってる!!!」
「ぬっ!?ツインテールに飛びかかられる体験をしたのか?
なんと!!なんと!!うらやましい!!」
説明しよう。
衛星から複数映像をダイレクトレンダリングしCGを瞬時に合成する事で、自らが指揮する怪獣に近いカメラ視点も選択出来るのだ。
つまり、ほぼグドンと同じ視点を共有し、ツインテールの顔が高速でドアップに向かって来る恐怖体験をトキノンはしたのだった。
想像してご覧…。
大型犬程の大きさのゴキブリ+ムカデのクリーチャーが、自らの顔面へと飛びかかって来る瞬間を…。
これに近い!!
これは…。
トラウマものだな…。
ムラマツ先生以外…。
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