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 蒼梧(そうご)はそれからも何食わぬ顔でコンビニに現れた。相変わらずのイケメンが憎らしい。  オレは、ワカナちゃん曰くの塩対応を崩さずに、必要最低限の会話だけを交わして、意識から蒼梧を追い出した。  しかし蒼梧はわけのわからない根気強さと図太さを武器に、 「(かなで)さ~ん。今日こそ連絡先教えてよ」  とふにゃふにゃした笑顔で強請(ねだ)ってくる。 「クマちゃん教えてあげなよ」 「ほら、ワカナちゃんもこう言ってるじゃん。ワカナちゃんは俺の味方だもんね~?」 「アタシはイケメンの味方。こないだ見せてもらったソーゴの親戚もすっげイケメンだったから、カンペキ家系だよね。あ、クマちゃんも写メ見せてもらえば?」 「ワカナちゃん」  蒼梧がワカナちゃんへと思わせぶりな仕草で目配せをすると、ワカナちゃんがペロっと舌を出して可愛く笑った。  彼らの一連のやりとりが、高校生らしく眩しいものに見えて、オレは目を背けた。  女もいける奴は、最終的に女を選ぶ。オレはそれを、元カレで学んだ。  同じ(てつ)は踏まない。  絶対に。  オレはレジから離れ、商品棚の整理を行った。蒼梧とワカナちゃんがなにかをヒソヒソと喋っている。なんだかモヤモヤした感情が立ち上ってきそうで、オレは無理やりに仕事に没頭した。   蒼梧は高校三年生。受験に向けて忙しくなれば、頻繁にコンビニなんかに姿を見せなくなるだろう。  それに、忙しくなる前に飽きる可能性だってある。  こんな年上の冴えない男になんか言い寄らなくったって、蒼梧ほど見目が整っていれば、相手に困らないはずだ。  いまはなんの冗談か勘違いか、オレに好き好き攻撃をしてきているけれど……すぐに飽きてワカナちゃんみたいな可愛い女の子の元へと戻ってゆくだろう。  陳列棚の在庫をひと通り見て回りながら、オレはふと、ある可能性に思い当たった。  自分が十代の学生だった頃。くだらない罰ゲームが流行っていた。  オレは基本的に根暗な性格で、ぼっち飯を食ってるような人間だったけれど、幼馴染の……元カレが、いつもそんなオレを仲間の輪の中に加えてくれて……オレは彼の隣で笑ったりふざけたり、楽しい学生生活を送っていた。  オレは昔からずっとあいつのことが好きで好きで、自分の気持ちをひた隠しにしてあいつの横に居続けたような卑怯な人間だったけれど、そんなオレが元カレと付き合うキッカケになったのが、罰ゲームだった。  学校にお菓子を持って来た友人が、罰ゲームと称してオレと元カレにポッキーゲームをやらせたのだ。そのとき、ほんの少しだけ唇が触れて……。我慢ができずに赤面してトイレに駆け込んだオレを、あいつが追いかけてきてくれて。  おまえとならできるよ、と言って。  オレのファーストキスは、学校のトイレの個室の中で。  チョコレートの味が、した。 「……さん。奏さん?」  ひょい、と不意打ちで顔を覗き込まれ、オレはぎょっとして後退った途端にバランスを崩し、後ろに倒れそうになる。  そんなオレを、危なげなく支えて。  蒼梧が華やかに整った顔で微笑した。 「珍しいね、ぼんやりして。考え事?」  問われてオレは、胡乱に目を細め、ふんと鼻を鳴らした。 「おまえ、暇なの? 毎日コンビニなんか来て」 「奏さんを口説くのにめっちゃ忙しいけど」 「……それで?」 「え?」 「オレがおまえに落ちたら、どうなんの?」 「落ちてくれるの?」  蒼梧の目が真ん丸になって、オレを凝視した。オレは眉間にしわを寄せて、バカ、と吐き捨てる。 「落ちねぇ。落ちねぇけど、オレがおまえに落ちるかどうか、賭けとか罰ゲームとかしてんじゃねぇの? いいよ、乗ってやるよ。それでおまえもコンビニ通いから解放されんだろ。コンビニ店員の佐久間はまんまと高校生のガキに告白されて舞い上がってオッケーしたって、仲間に言っとけよ。話合わせてやるから」  ふぅ、とため息を吐いて、オレは無意味に商品の角度を整えた。  ふと気付くと、蒼梧が無言でオレを見下ろしている。  真顔のその迫力に、オレは思わず肩を引いた。 「…………奏さん」 「……んだよ」 「今日も終わるの待ってる。ちょっとちゃんと話をしようよ」 「おまえとしたい話なんかねぇし」 「俺にはあるから。裏口からとか逃げんなよ」  普段の軽い口調をかなぐり捨てて、蒼梧が強い眼差しとともにオレに命令してきた。  その言い方にカチンときたけれど……蒼梧があんまり真剣な表情をしていたから。  オレは曖昧に頷いて、男の傍から離れたのだった。
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