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「今頃どうしてるんだろうね? 二階堂陽太」
「知らない。もう断る理由を考えなくて済むと思うと、せいせいするよ」
イートインスペースのテーブルを拭きながら、美月はぶっきらぼうに答えた。
最後に陽太が訪れた日から、三日が経っていた。
あの日、美月はファミレスへ行かなかった。
行ったところで、答えは変わらない。面と向かって断るか、無言の拒絶を示すかの違いでしかない。
念の為、昨日のバイト終わりに駅前のファミレスを覗いてみたが、当然のことながら、そこに陽太の姿はなかった。
「ずっと待ってるって言ったのに……」
美月は小さく独りごちた。
もっとも、本当に待っていられたら困るのだが。
あまりにも身勝手な自身の言葉に、我ながら呆れかえる。
その時、来客を知らせるチャイムが鳴った。
「いらっしゃいませ」
振り返ると、喪服姿の若い男が日用品のコーナーに向かって行くのが見えた。
ドリンクを補充している亜里沙に「いいよ」と手で合図すると、美月はレジカウンターの中に入った。
間もなくカウンターへとやって来た男は、そこへ無造作に商品を置いた。
「百八円になります。袋はご利用ですか?」
「いえ。そのままで結構です」
「ありがとうございます」
男が購入したものは、香典袋だった。
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