嫌いの向こう側

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 商品とレシートを渡そうとした時、「朝倉美月さんですか?」ふいに、男が声を掛けてきた。 「え? あ、はい」  反射的にそう答えると、美月はじっとその男を見つめた。  黒髪に彫りの深い目鼻立ち。どこにでもいそうな好青年。  はて? 誰だろう?  首を傾げる美月に、「二階堂(にかいどう)陽太(ひなた)」男はまるで暗号のようにその名を口にした。 「え?」 「ご存知ですよね? 二階堂陽太」 「ええ……。まあ……」  なんだか胸騒ぎがする。美月は無意識に、胸を押さえた。 「俺、友人なんですよ。二階堂の」 「そう……ですか……」 「三日前の夜、彼と待ち合わせしていましたよね? 駅前のファミレスで」 「はい……」 「実はあいつ、そこに向かう途中、事故に遭って……」 「えっ……?」  香典袋を持つ美月の手が、激しく震え出した……。
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