鬼の娘

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梅雨明け宣言が出された翌日。 僕は汗をかきつつ駅までの道を駆けていた。 学校に遅れそうだというのに道行く人、すれ違う人の頭をチェックしてしまう癖は抜けない。正しくは頭ではなく髪に彩る鮮やかな赤い色だ。 当初の目的はもう忘れてしまった。 ただ、そのおそらくは髪飾りをどうしても見つけなければいけない。それを身に着けている者を探しだすことは使命というより義務に感じている。 けれども十年と出会えていない存在に、いつか会えるかもしれないという期待はもうない。 それでも衝動に逆らえず、習慣になっているだけだ。 階段を転がり降り、陸上競技のリレー日本代表のバトンの受け渡し並みにスムーズに地下鉄の改札を抜ける。 しかし、無情にも目の前で電車の扉がしまっていく。絶望の気持ちが胸の中で広がっていく。 あきらめかけ、足を止めた時にその音は聞こえた。 ゴガッ! と、ともに一度は完全に閉まった電車の扉が開いていく。どことなく開き方がぎこちない。 僕はここぞとばかりに、おしくらまんじゅうで強引に乗り込む。ほかの乗客のことなんて構っていられない。 一息ついたところでスマホをリュックから取り出したかったが、ぎゅうぎゅう詰めの車内でそれは我慢することにした。 乗車出来ただけでもラッキーだったのだから、それくらいは仕方がない。贅沢は言っていられない。 と、そんな諦観した面持ちで顔をあげると、ふいに視界の隅に赤いヘアアクセサリーが映った。
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