黄昏の君

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こどもらしい、と言ったらきっと彼は傷つくだろう。 『魔王』は齢十三の侍従-暁王子(あけのみこ)の頬の熱さを(たなごころ)に愉しみながら、彼が参内した日の事を思い出した。 あの頃彼の瞳を覗き込むと、その淵には孤独と抑し殺した悲痛の夜霧がたゆたうていた。 けれども今は、掛ける言葉にあわせて瞳のいろは虹色にうつろう。 涯知れぬ霧の海。広漠たる虚無の地平。 その彼方に、こんなにも美しい景色が広がっている事を一年前の己は想像すらしていなかった。 『(いや)。これが変幻自在の可能性、〝我ら〟を退けた人族の力というものか』 一年前、特使として遣わされた宮宰と共にやってきた時は薄氷(うすらひ)のように儚く、霜柱のように小さかった童が今や欠かせぬ侍臣になった。 ・・・わたしの背を抜かすのも、もうじきだろう。 千歳を閲してなお不変の常乙女と人界に畏怖される己が、こんな感慨を懐くと誰が知ろう? 麗しき魔王は長い指でそのまま愛しい臣下の頬をつねり、鈴のような笑いを溢した。
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