黄昏の君

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曇りなき笑顔の中、紫紅の瞳に走った憂愁の影を暁は確かに見た。 『魔王』様は一体何を胸に秘されたのであろう? もしかすると、彼女は既に気付いているのかも知れない。自らの裏切りを。 宴果て私室に退いた後も、この一点の気掛かりの故に暁は眠りに就く事能わなかった。 刻既に深更に至り、樹海を照らす青い月は西に傾いている。 季節をわかたず冷気立ち籠む城内に居ながら、頭が熱い。 考え込めば考え込むほど眠気は彼方に遠退き、意識が冴えてゆく。 これでは早朝の勤めにも差し障る。 暁は寝台を脱し、手燭を取って闇に沈む廊下へと歩み出した。 暫し散歩に刻を過ごせば、埒もない煩悶も霧散しようかと判じたのである。
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