ガキ親父と焼き鳥とビール

1/1
16人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ

ガキ親父と焼き鳥とビール

ある日夕方ガキ親父が、喜び勇んで焼き鳥を買って帰ってきた。 まだ熱くて作りたてほやほやだ。 見るからにそこらのチェーン屋台で作られた物と違っていた。 いい焼き加減で、炭臭くないし、てりてりしていて、すぐにでも食べたくなる。 「ほらちなこ、焼き鳥だぞ、あそこの近所にできた店で買ってきたぞー。どれどれ、どんな味だ?食おう食おう!ビール冷蔵庫から持ってきてー」 にかにか笑ながら、どっかり座り、自分は串を一本早くも手に取って、ガキ親父が命令する。 私が急いでビールを取ってきたときには、至福の顔でモグモグしていた。 「うめぇー!やっぱ、焼く人が焼くと全然違うねぇ!ちなこなんで食わないの?凄く旨い!」 君のビールを取りにいってたからでしょうが。 しかも。 「ちなこー。ビールは一本ずつ持ってきてよ。温くなるだろうが!」 わかんない奴だと言わんばかりの物言いだ。 どっちがだよ。 焼き鳥ゆっくり食べたいから二本持ってきたんだよ。どうせ、一本目はすぐなくなるんだしいいじゃないか。大体、そんなに拘りたいなら自分で持ってきてよ、なんで私に言いつけるか? 「一本しまってきて!速くー!」 ぷしゅ!とビール缶をあけながら、あくまでも私にしてほしいガキ親父。 無視して焼き鳥を一本手に取ったら、拗ねた。 「なんでビールしまわないのー!焼き鳥食ってる場合じゃないだろ!」 グビビグビビ、ビールを喉に流し込みながら文句を垂れる。 それでも無視して焼き鳥を食べた。 あ!本当だ、なにこれ、この塩ねぎま、凄く美味しい!うわー、美味しいなあ! 「ほらあ!飲んじゃったじゃんか!もういいよっ!せっかくちなこのために焼き鳥買ってきたのに!」 「私のためかーーい!?ならゆっくり食べさせてよ」 「それはそれ、これはこれよ。いいよもうっ、それも飲むからちょうだい!」 手を伸ばせばすぐとれるものを、どうしても私にやってほしいらしい。 ガキ親父め! 「取ってくださいって言いなさい」 私がモグモグしながら怒って言うと、ガキ親父は膨れた。 「嫌だ!とって!」 「食べ終わるまで待って」 「とってよう!はーやーくー!」 足をバタバタ。 子供がやれば可愛いけれど、身長189cm、102kgのマッチョなオジサンがそれをする姿は大変情けない。 うるさいなあ、ほら! 私がビール缶を渡すと、大急ぎで手に取り、ぷしゅっ。 計30本の焼き鳥は、殆んどガキ親父のお腹に消えて、はやっ!とおもって時計を見たら、まだ20分も経っていない。 もう最後の一本しか残っていない。食べなくちゃ。 「あああ!とられたあ!」 今にも泣きそうな顔でガキ親父が叫んだ。手にはまだ食べかけが残っている。 ふん、食べちゃえ。 「全部食べないで!半分くれえー!」 ガキ親父は手に持っていた串を慌てて平らげると、懇願してきた。 しょうがないから、あげたよ。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!