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ガキ親父と愉快な仲間たち
ガキ親父が、今から家の前でバーベキューをすると言う。
外にはもう何人か集まってて、誰かが自慢のグリルマシーンを広げているらしく、値段はいくらとか、こういう性能があって、素材はどこぞの国の軍隊も採用しているなんたらかんたらで、と嬉々として説明している声がする。
そのうち、おおおー!と野太い喜びの声が上がった。
着火式をしたらしい。
「ちなこは何か焼く野菜切って。あと病みつきキュウリもつくってー」
全身でウキウキしながら、ガキ親父は私に命令すると、仲間のところへ。
「おお?!いいやんけ!なかなかにグレイトな火力ですなあ!」
大喜びですなあ、親父。
私、今夕飯を作ろうと思ってたんだけど。しょうがないや、メニュー変更。
冷蔵庫のなかに、茄子が一袋。エリンギがひとパック。玉ねぎか四つ。
窓を開けて覗くと、オジサンが全部で四人。もう皆ビールを片手に、幼稚園児みたいに楽しそうに笑っていた。
そのうち飛び入りさんも来るだろうから、全部切っちやえ。
「ちなこー、ねー、野菜出来た?」
ガキ親父が来て、ちょうだいと手を出した。
「ハイハイ、どーぞ」
私が野菜を並べた大ザルを渡すと、ガキ親父は「うぇーい♪」と叫びながら持っていく。
「おおお!ナスだあ」
「玉ねぎうぇーい!」
「うぇーい!エリンギだあ、これね、焼き方次第で松茸より美味くなるんスよ!」
「いっちょいきますかー!うぇーい!」
「うぇーい!」
さっきよりオジサンの数か増えてる。
肌の色もカラフルになってきた、タイ人とアフリカ人のオジサンも混じっている。いつの間に。
皆さん座ったり立ったり、グリルマシーンの火を弄ったり、楽しそうですなあ。
キュウリを洗い、一口大に切って軽く塩をかけて揉み込み、ビニル袋に入れる。
にんにくをひとかけすり下ろしてそこにいれて、そのあと塩昆布、ごま、胡麻油も入れる。
まんべんなくキュウリに材料が混ざるまでビニル袋を揉んで、暫くそのまま放置。
「やっと肉がきたー!」
喜びの声が上がる。
「イェァ!コニチハ!」
最近ガキ親父と仲良くなった、両腕が刺青だらけのアメリカ人のラッパーくんが大きな買い物袋を抱えて仲間に加わった。一番年下だから使い走りをさせられたらしい。まだ日本語あまり話せないのに、頑張ったなあ。
「ちゃんとビーフとチキン?イスラムいるからポークダメだよ?」
ガキ親父が偉そうに確認してる。
「OK!ポークない!イェァ!」
「うぇーい!焼こうぜ焼こうぜ!」
ジュワー
お肉の焼ける美味しそうな音がしてきた。私は出来上がりの病みつきキュウリを器に入れて、ガキ親父たちのところへ持っていった。
「奥さん!これ浅漬けッスか?美味そー」
「ううん、これは病みつきキュウリでーす。にんにく入ってます。どーぞー」
オジサンの一人が私に、ビールケース二つにコンパネを渡したにわか作りの椅子に座るよう勧めてくる。私か座ると、さっと紙皿が出てきて、そこに焼き肉のたれタイバージョンが注がれ、ヒョイヒョイと肉をよそって貰った。
「うぇーい!食べて食べて」
「奥さんはい、チューハイ」
「わーい!いただきまーす」
カンパーイ!
オジサンたちと缶を合わせ、私も。
「うぇーい!」
バイクのメカニックさんと電気機器のデザイナーさんが、ラッパー君に一生懸命自分の仕事の説明を英語でしようとしている。
キャンプファイアー命のアウトドアマニアさんが、タイ人のムエタイファイターに技を教えてもらってる。
ガキ親父は服飾関係のお店を経営するアフリカンやバイク大好きオジサンたちと、家の前に停めている愛するバイクZX12Rを囲んで、ブレーキのうんたら、トルクチューンがなんたら、タイヤの摩擦が云々とさっぱり訳のわからない話でモリモリに盛り上がっている。
ガキ親父はどうやらアフリカンをバイク好きに洗脳しようとしてるみたいだ。
皆ニコニコニコニコ笑ってて、本当に、本当にすっかり子供みたいになっちゃって楽しそう。
皆の様子を眺めながら、しょうがないねえ、と私もつられてニコニコした。
夜はじわじわ惜しむように何だかゆっくり更けていく。
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