タイチとイチヤの闘い

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タイチとイチヤの闘い

 アイには世話になっているから、おおっぴらに文句は言えない。だがこれ以上この馬鹿騒ぎを眺めていろと言うのなら、うんざりだ。私が黙って部屋を出ていく時も近いだろう。 「ヴヴヴヴォーーーノ!!!」 「や、やめろーーーー!!」  苦しげに手を伸ばして訴えかけるタイチ。だが無常にもカードはイチヤの手を離れ、カードの山の上でバウンドした。 「再び勝利~♪」  崩れ落ちたタイチは、しばらく黙っていたが、やがてワナワナと震えだした。 「こんな……こんな、小狡(こずる)い頭を使うゲームはうんざりだ……やっぱり……男は力で勝負だ!! うぉぉ!」 「ま、待てタイチ! 汚いぞ!! うわぁ!」  突然ルールが変わって焦るイチヤ。  逃がすもんか! タイチは逃げようとするイチヤに飛びかかった。腐ってもサッカー部、俊敏さと力ではタイチが有利だ。 「キャ! な、何!?」  アイの体がマットレスのスプリングの振動で上下に跳ねあがった。イチヤがたまらずベッドの上に逃げ込んだからだ。 「わっ! わっ! ひゃあ!?」  二人が暴れるたび、アイの体は制御不能の宇宙飛行士みたいに、くるくると回った。出来ることは、本を胸元に抱えるだけ。アイはこぼれたお菓子と一緒に、布団の上でもてあそばれた。 「こら! 逃げんなイチヤ!」  そんな混乱にも、タイチは動揺しない。たくましい腕が伸びて、ガリガリのイチヤの胴に絡み付いた。  「捕まえた! ついに必殺のホールドを試す時が来た!!」 「いてて! ま、マジに力入れんな! ぐ、ぐわわわ!」 「はっはっはっ! その声が聞きたかった! 勝利~♪」  変則卍固めを決められて苦しそうなイチヤと、勝ち誇るタイチ。  二人の足元では、揺さぶられて目が星マークのアイが突っ伏している。 「ほんともーうるさいってば!」  たまらずドンと丸テーブルを叩くトシカズ。ティーカップが揺れ、まだほとんど飲んでいない紅茶が波立った。 「みんな……子供なのね」  マリアも頭を抱え、騒動を眺めているしかなかった。 「く、く、くそ……」  動けないイチヤが声を絞りだした。 「ん……何だ、イチヤ? へへ! ギブならタップ三回たぞ?」  タイチは余裕ぶった。だが、それが油断となった。イチヤは勝負を諦めていなかった。 「イ、イ、イチヤさまを……」  イチヤはタイチの見えない背中で、()められていない方の腕を動かしていた。 「な、め、ん、な……にゃ!」  イチヤの指が尖った槍になって、タイチのお尻の『あの部分』に突き刺さった。 「ぎゃああああああ!!」
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