探偵 二宮吾郎

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緑里は自宅のインターフォンを鳴らした。もちろん鍵は持っていたが、吾郎が挨拶をしておきたいと言うからだ。 程なくして足音が大きくなり、母親が顔を出した。 「こんばんは。こんな遅くまで娘さんを連れ回してしまってすみません」 「いえいえ、こちらこそ。それに昨夜は、旦那もすみませんでした」 「不審に思われてしまうのは仕方のないことですから」と返しながら、緑里と母親の着眼点が類似していることに内心笑っていた。周囲や家族にもよく気を配っているのは、きっと母親譲りなのだろう。 母親はポン、と手を叩いた。 「そうだ、探偵さん! 旦那もまだ帰ってきていないので、ウチでご飯でもどうですか? そうすれば顔合わせもできますし」 母親と娘、似ている顔が吾郎を見つめた。お礼も兼ねて、というつもりなのだろう。 「い、いいえ。まだまとめる仕事もありますし、こうして話している間も路上駐車になってしまいますので……お気持ちは嬉しいんですが、また改めてということで……」 「あら、そうなんですか。それは残念」 「進捗や明日の予定については、申し訳ありませんが娘さんから聞いていただけますか? えと、すみません、失礼します!」 吾郎は表情を作り笑顔で固めたまま、そそくさと自分の車へと向かっていった。 親子はそれを呆然と見送ることしかできなかった。 「……探偵さんって忙しいのねぇ」 ポカンとする母とは裏腹に、緑里は吾郎の慌てた様子を見て、どこか違和感を覚えていた。
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