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吾郎は車を走らせ、一人車内で叫んだ。
「あぁもう……いい加減慣れないものかなぁ、我ながら!」
ぐうぅぅ、と獣の鳴き声に似た音が響いた。吾郎の腹だ。片手を添えてみるが、収まる気配は一向にない。
彼は過去に一度、ああして依頼人の家へ上がったことがある。そして流れのままに食事を頂いたのだが、その一家が料亭を営んでいたもので、それは大層美味しかった。
しかし食後にはきっちりお勘定が待っていて、手持ちがすっからかんになった事があったのだ。帰って上司に事情を説明してみたものの、経費になるはずもなく、逆に叱られる事態になった。
それ以来、依頼人からそういった誘いがあろうとも、つい反射的に断るようになってしまったという訳だ。
「うぅ……あの匂い、カレーライスだったのかな……美味しそうだったなぁ」
だがそれは精神的な話であって、肉体的には動き回った体が食事を欲するのは当然のことだった。
今すぐにでも何かを食べたい空腹感を押し退けて、トラウマでつい断ってしまうのだ。それは本人にとっても納得がいかないことだった。
「あーっ、もうっ! 帰ったらマスターにカレー貰おう!!」
なのでこうして、断ってから一人車の中で悶えることしか出来ずにいた。
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