探偵 二宮吾郎

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十色崎霊園は綺麗に整っていた。一つ一つの墓石はとても大きく立派だが、猫を探すには少し不都合だな、と吾郎は思った。 「君は流石にそういうことはしないと思うけど、墓石には乱暴にしないようにね」 「もちろん、大丈夫です」 立ち並んだ墓石へ軽く一礼をしてから、声をかけながら探していく。天気がいい事も今ばかりは憎らしく、墓石が反射をして何度もキラキラと視界を遮る。 「クロウ、クローウ!!」 墓石の行列の間を縫うように進んでいると、吾郎はふと立ち止まる。 「……ん、待って!」 緑里へ耳をすませるよう指示をした。 呼吸を整えてから耳へ意識を傾ける。木々が風に揺られて騒ぐ。その音に紛れて、か細く猫の鳴き声がした。 どちらとなく二人で顔を見合わせ、間違いないと確信した。 「聞こえた、こっちだ!」 「はい! ……こっちは、やっぱり」 吾郎を追うと、霊園の一角にたどり着いた。そこは緑里にとっては見覚えのある場所だった。 緑里はこれで確信を得た。 「この辺りだったんだけどなぁ。ちょっと、向こうを──」 「クロウ、出ておいで。怒ってないよ」 緑里はとある墓石の前でしゃがみこみ、優しい声をかけた。 それに応えるように、墓石の影から少し痩せた黒猫が現れた。首には赤い首輪があり、人の姿にも怯える様子もなく、真っ直ぐ緑里へと向かってきた。緑里が両腕で抱えると、黒猫は小さくあぉんと鳴いてから頭を擦りつけてくる。 吾郎はどうにも事態が飲み込めず、ぼうっと眺めることしかできない。 「ずっとお祖父さんに会いたかったんだね。それできっと匂いを追いかけて、ここに来たんだ」 返事をするように黒猫──クロウが鳴く。 この声は、温もりは、肌触りは、間違いなく探していたクロウだ。緑里は込み上げてくる涙も拭わず、ただ再会できた喜びを噛み締めている。 吾郎は気になり、墓石を確認した。深見、という名字だとわかると納得した。 「そうだよね。ハーネス買って、クロウもここに連れてくるって約束してたのに。あれからみんな忙しくって忘れちゃってたもんね。……ごめんね」 緑里はクロウの両脇へ手を入れ、しっかりとクロウの顔を見つめて話しかける。 聞いているよ、と返事をする代わりに、クロウはゆっくりと瞬きをした。 「今度こそちゃんと、連れてくるから……だからもう、黙って……居なくなっちゃわないで。 もう会えないんじゃないかって、なにか私が悪いことしちゃったかなって……何より、怪我してないかなって、心配で……たまらなかった」 再び両腕でクロウを抱きしめると、ドクン、ドクンと人間よりも早い脈動が緑里へと伝わる。 目を閉じて感情のままに涙を流していると、クロウが頬からそれを舐めとった。驚いて目を開けると、クロウはゴロゴロと喉を鳴らして微笑んでいる。 緑里は思い出した。 あぁ、この顔だ。クロウは祖父によくこの顔をしていた。撫でられては、抱えられては、目を閉じて喉を鳴らしていた。 きっとクロウは祖父にちゃんと別れを告げ、自分のことを認めてくれたのだと緑里は感じた。 「ありがとう……」 何度も頬を舐められながら、クロウをしっかりと抱きしめる。 吾郎も緑里とクロウを優しく見守りながら、二人が無事再会できたことを心から喜んでいた。
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