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しばらくして落ち着くと、緑里はクロウを抱えた。
霊園から車へと戻る道のりでも、大人しく緑里や吾郎、外の景色を見つめているだけだった。
「そういえば特技の回転はできるのかい?」
「そうですね、今できるかな……クロウ、回って!」
クロウを地面へ下ろし、顔の前で指先をくるくる回すと、自分の尻尾を追うようにぐるぐると回った。
吾郎は感心して、小さく拍手をした。
「これはすごいね。犬でやっているのは見たことあるけど、猫は初めてだ」
「祖父が教えたんです。できたらご褒美をあげてました」
今は撫でるだけでも大丈夫です、とクロウを抱えてから喉元を撫でる。目を細めて、喉をぐるぐると鳴らしている。
「さて、帰ろうか。入ってくれるかなぁ」
もしも見つけられた時のために持ってきたキャリーバッグを車から下ろし、目の前に広げてみると大人しく入ってくれた。これには吾郎も緑里も、正直助かった。
クロウはどうだ見たかと言うように、にゃーんと長く鳴いた。
「いい子だね、クロウ。じゃあ吾郎さん、お願いします」
クロウも無事に確保できたので、皆で車へ乗り込んだ。クロウの入ったキャリーは、緑里の膝の上だ。
ゆっくりと車を動かし始める。
「本当にありがとうございました。こんなに早く見つかるなんて、驚きました」
「はは。正直、僕も驚いているよ。早く見つかったのはきっと、緑里ちゃんがクロウの事にしっかり向き合っていたからだよ」
吾郎ははぐらかすようにそう答えた。どうやら誉められるのは苦手らしい。
「……あの、吾郎さん」
「ん、どうしたんだい?」
緑里はまた口に手をかけている。考え事がまとまるようにと、吾郎は運転に集中しながら次の言葉を静かに待った。
「私のこと、どう思いますか?」
予想外の方向性の話題に、思わず気を取られた。吾郎は運転に集中せねばと、ハンドルを握り直す。
「……えーっと、質問の意味がわからないな。どうって、どういう意味だい?」
吾郎に聞き返され、自分の質問が誤解を招く言い方だったと気付き、緑里は頬を赤くした。
「あ、えっと、すみません! その、そういう意味じゃなくて、役に立っていたかって話です!」
誤解が生じる前でよかった、と二人は胸を撫で下ろした。吾郎は運転中なので、内心でだが。
「役に立つも何も、本来は僕が手助けをする側だよ。ただ、ここまで積極的な依頼主は珍しいからね。それに頭もよく回る。だから今回は色々と驚いたよ」
「そう、ですか。ありがとうございます」
吾郎が答えると、緑里はまた考え込む姿勢に戻った。吾郎にはその質問の真意がわからなかったが、それを探る必要はないだろうと思った。
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