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「では依頼の報酬は約束通り、後日改めてお持ちしますね」
それに比べて、生々しい話になると途端にばつが悪そうに頭をかくばかりだった。
「えぇ、お願いします。では、また何かありましたら、ご連絡下さい」
吾郎は一礼してから、そそくさと車へ帰ろうとしたが──
「あ、あのっ!」
緑里が少し強張った声でそれを食い止めた。
自身も緊張していることを自覚しているらしく、一度深呼吸をしてから言葉を捻り出す。
「もし……もしよかったら、吾郎さんの探偵事務所で働かせてください!」
その言葉は吾郎が想像していないものだった。
そして母親も初耳らしく、驚いた表情で緑里を見つめている。おまけにクロウもだ。彼は大きな音に驚いただけだろうが。
緑里は言葉を選びながら続けた。
「仕事している所を近くで見て……その、感動しました。誰かのために、ここまで本気になってくれるんだって。それが嬉しくて、驚いて……すごいと思いました!」
「は、はぁ……」
「それで、あの……私みたいに困ってる誰かを、私も助けたい、助けるお手伝いがしたいんです!」
お願いします、と頭を下げて固まった。思わず母親と吾郎は顔を見合わせた。それには特に意味はなく、状況がわからないのは自分だけでない、とだけ確認ができた。
吾郎は少し黙って考え、ため息にもならないような息をはいてから答えた。
「僕としては、おすすめしない。仕事は今回みたいなことばかりじゃないし、身に危険が及ぶ可能性もある。
それに、その……恥ずかしながらお給料は高くできないだろうしね」
ここいらで緑里の顔をちらりと覗いてみるが、諦めた様子はない。吾郎は腹を括らねばならないか、と覚悟を決める。
「だから──そうだね、一ヶ月。
一ヶ月試してみなよ。今のところはそんなに危ない依頼もない。それでやってみて、続けられそうならやってみたらいい」
緑里はそれが了承の返事であるとわかると、また大輪のような笑顔になった。
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