探偵 二宮吾郎

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後日、白間高校最寄りのコンビニの駐車場で、緑里は吾郎と落ち合った。 黄色い軽自動車の近くに吾郎は立っていた。昨日と大差ない格好だが、雨に濡れていない分髪型や服装には落ち着いた印象があった。 「や。学校お疲れさま」 「いえ、こちらこそお待たせしてすみません」 「これが仕事だからね。さぁどうぞ、狭い車だけどね」 吾郎が助手席のドアを開いて手招くと「ありがとうございます」と一礼をして緑里は乗り込んだ。 「保健所までは十五分くらいかな。退屈しのぎにぼちぼち話でもしながら行けばすぐに着くよ」 二人がシートベルトをし終えるとキーを捻り、車のエンジンをかけた。型式こそ少し古いものだが、調子は良好だ。 軽やかな軌道で駐車場から一般道へ合流する。 「話と言えば、昨夜はすみません。父親がどうしても『怪しい奴だ!きちんと話をさせろ、事と次第じゃ解約だ!警察だ!』だなんて言って聞かなくって」 「あれくらいは慣れたものだよ。 ──あぁ、お父さんがどうってことじゃなくてね。職業柄がどうにも胡散臭がられるから、珍しくはないんだ」 流石に顔を付き合わせるのはできないが、話をしながら運転をすることは吾郎にとっては慣れたことだ。 「子供思いなお父さんって事だしね。それに、通報されないだけマシな話だよ」 「えっ、通報されたことあるんですか?!」 「流石に例え話さ。断られた事は何度もあるけどね」 「そうなんですか。……探偵って、大変なお仕事なんですね」 緑里が急に静かになり、様子を見ると下唇に右手の親指をかけていた。恐らくは考え込むときの癖なのだろう。 「そういえば二宮さんは、探偵なのに帽子とか煙草とかはしないんですか?」 どうやら次の話題を考えていたらしく、何気ない会話だと思った。 しかし同時に、吾郎には何か違和感があった。 「まぁそうだね。……ん、待って。帽子は見てくれでわかるけど、どうして煙草をやってないって思ったの?」 そう、喫煙しているかどうかは話をしていない。とはいえ緑里がそれを考えず、当てずっぽうに言う性格だとは思えなかった。 「もし二宮さんが喫煙者だったら、車の中でも吸ってそうだから。この車からはそんな臭いはしないし、芳香剤も特に見当たらないので……って、昨日の二宮さんの物真似みたいなものですけど」 照れ臭そうに笑っているが、吾郎には冗談とは思えなかった。 煙草の匂いがすれば喫煙者だとは思うだろうが、『匂いがしないので非喫煙者だ』という発想をするには少し柔軟性がいる。緑里は自然と、物事の側面を捉えようとしている。 高校生の単なる世間話の切り口としては、少し鋭すぎる。 「君、探偵に向いているかもね」 感心した吾郎がそう溢すと、満更でもなさそうに頭をかいた。 「二宮さんに言われるなら、本当にそうかもしれないですね。そしたら二宮さんと私で、クロウもきっと見つけられますよね!」 二人でと言わずとも、探すコツを学べば彼女は一人でも見つけられるのではないだろうか。吾郎は彼女に、それだけの可能性を感じた。 「そうだね。気を取り直して、保健所を探そう」 「気を取り直す?」 「こっちの話さ。あぁ、その前にこの写真を……ん、あれ?ちょっと前ごめんね」 信号で止まった隙に吾郎は助手席のグローブボックスを開くが、目当てのものはない。置いてきた場所に心当たりがあるようで、すぐにグローブボックスを閉じてハンドルを握り直した。 「……ごめん。ここいら辺の野良猫を撮った写真を事務所に忘れたみたいだ。保健所が終わったら一度事務所に寄ってもいいかな?」 「はい、構いません。どのみち遅くなるかもと、母にも伝えてあります。二宮さんなら安心ですしね」 そういって無邪気に微笑まれることが彼女からの信頼の証であり、吾郎にとっては細やかなプレッシャーでもあった。
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