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僕の母って、前途有望な数学者だった。僕も母のようになりたかったから、数学研究センターのある東洋教育大学への進学をめざしていた。
おばあちゃんったら、そんなこと自慢げに話すんだもん。
めちゃ恥ずかしかった。
数学できてたって、東洋教育大学めざしてたって、バレンタインには義理チョコひとつもらえないんだ!
遠野さんは、すぐ近くの広告代理店の企画部の主任って話。
毎日、会社の制服で出勤。コーポにお帰り。
ボタン付ブラウス、ピンクのベストにジャケット。膝上が見える黒のスカートに黒のハイソックス。
セミロングの髪をブラウンに染め、化粧って結構濃い目。
たぶん三十歳越えてるって思う。
直接、そんなこと言ったらいけません。
でもきりっとした雰囲気で、なんだかかっこいい。
背が高い。たぶん一メートル八十センチ以上。 僕、一メートル七十センチ。早生まれだし……
スカートから少し見える太腿が、結構ボリュームあるんだけれど、色が白く黒のハイソックスがピッタリ。
僕の初恋。幼稚園の保母さんだった。
だから仕事の制服にソックスが似合う大人の女性というのは、結構気になるタイプなんだ。
いつだったかな。学校から帰ってきてコーポの前で会ったとき、ちょっとだけ心がときめいた。
遠野さんったら不思議そうに、
「どうかした?」
なんて聞いてきた。
思わず、
「えっ?あの、その、キレイですね」
って顔真っ赤で答えた。
答えてから、ますます顔真っ赤。
なに言ってんだろう? 僕って!
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