第四夜・―戦禍の少女、ラーレ―

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 その後も声を出そうとするけれど、何故か何の音も響かない。  その内に少年の表情が悲しげに曇る。 「……ごめんね。そうだよな。お父さん(アブー)お母さん(ウンム)を一度に喪ったんだもんな。ごめん」  そう言って、返事も聞かずに抱き締める。  力は強かったのだが、不思議と苦しくも痛くもなかった。  きっと、この少年は優しいのだろう。  もしかしたら、大切な人達を喪う痛みを知っているのかも知れない。  それでも、すぐには信用出来なくて、少しだけ抵抗して離れたい素振りを見せ、言葉の代わりに意思表示をする。  すると少年は、慌てた様子でぱっと離れる。 「あ、ごめん。突然。嫌だったよな。普通、いきなり逢った人間の事なんて、誰だって信用しない」  それが当たり前な反応だと、そうは言っても悲しげな表情に変わりはなくて、少女は首を横に振る。  そうして少年へと近付くと、細い腕を背中へと回して、背伸びをしながら抱き締めてみた。 「……え。だ、大丈夫、なの?」  何回も頷く。  すぐには信用出来ないけれど、いくら少女がその場で死のうとしていたのを阻止したとしても、少年が命の恩人である事に変わりはないのだ。  感謝は出来ないけれど、お礼はしなければいけないと思う。  そう考えて、お返しに抱き締めてみたのだ。
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