行き過ぎる兄の劣情

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行き過ぎる兄の劣情

 掠れてか細い悲鳴が微かに上がった。  匡一(きょういち)は咄嗟に差し出した掌を見つめ、クスリと微かに笑う。 「――いっぱい出したな、タカ……ほら、見てみろ。掌じゃ受け止め切れなかった」  微かに汗の匂いのする耳元に囁きかけながら、匡一は掌を広げて見せた。  粘り気のある白い液体が、匡一の掌に纏わりついている。広げた所為でそれは零れ出て、昂大(たかひろ)の胸や腹にボタボタと垂れた。  昂大は抵抗する気力もなく、その微かに生臭い匂いのある液体が身体にかけられていくのを、細く喘ぎながら見つめていた。その視界がぐにゃぐにゃと滲んでいく。 「……っう、く……ふぅ……」  食い縛った歯の間から、微かに声が零れる。堪えきれなくなった嗚咽だ。  ()かされてしまったのだ。執拗に乳首を抓まれ、撫で摩られ、舌先で弄ばれ、舐めて噛んで吸い上げられ――時折耳元に吐息を吹きかけられながら卑猥な言葉の挑発を受け、限界だった。  他人に無理矢理高められて達かされるというのは、精神的なこともあるのか、とても体力を消耗した。全身の力がだらりと抜け、腹立たしい兄に背中を預けている。  そんな無防備な弟の姿に、匡一はまた囁きかける。 「何故泣く。悔しいから? 恥ずかしいから?」  揶揄うような口調が腹立たしい。昂大はそんな兄から顔を背け、僅かにだが逃れた。 「……うる、さい……黙れ、変態……ッ」  その言葉を吐き出すだけで精一杯だった。なんの抗議力もない悪態だけが、今の昂大に出来る唯一の反抗だった。  匡一は昂大の精液に塗れた掌を、先程それで汚した腹に撫でつけた。ビクリと昂大の身体が震える。 「俺が変態?」  ねちょねちょと音を立てながら、粘ついた体液が腹から胸にかけて塗られていく。その撫で摩る手つきに、昂大は身震いした。 「お前の方がそうなんじゃないか、昂大」  意地の悪い響きを含んで、匡一は悪魔のように弟に囁きかける。 「胸を弄られただけでイッて」  精液を塗りたくる手は、性的なものを強く感じさせる触り方だ。昂大はきつく目を閉じる。 「自分の精液を塗られて、興奮してる……変態じゃないか」  見てみろ、とうっとりとした目つきで促す。そんなもの確認せずとも、自分の身体のことくらい昂大もわかっている。きつく瞼を閉じて、匡一の声から目を背けた。  吐精したばかりの筈の昂大のペニスは、再び勃ち上がり始め、匡一の手から逃れようと身を捩る動きに合わせ、ゆらゆらと揺れているのだ。けれど、そんなことは認めたくない。今度は腹や胸を掌で撫でられているだけでこうなっているだなんて、認められる筈がなかった。  意地の悪い指先が何度か乳首の横を掠める。散々嬲られたそれは、真っ赤に熟れていやらしいくらいだった。女性のものでもこんなに欲を誘うようないやらしさの乳首はないだろう。ここまでなっていたら、直接触れずにも昂大は感じていることだろう。  昂大はいやいやと首を振った。 「お、弟に……こんな……兄貴の、が……よっぽど変態、だろ……!」  途切れがちに震える声音は、気を抜くと零れ出そうになる女の子みたいな声を堪えながらのことだろう。そんな弱々しい声で必死に兄を罵る。  けれど、涙目の上目遣いでそんなことをしても、それは罵声ではなく、甘美な誘い文句にもなり得る。事実、匡一の劣情を刺激するには十分な声音だった。  匡一は抱えていた昂大の上半身をベッドに倒し、うつ伏せにさせる。なんだよ、と昂大はすぐに声を上げたが、兄からの返答はなく、変わりになにかを漁るような音がした。シーツに顔を押しつけられるような姿勢の昂大からは、兄がなにをしているのかが探れない。なんだよ、とまた声を上げる。  片手で器用にベッド傍の戸棚を漁り、目当てのものを探し出す。取り出したのは、少し前まで荒れていた手の為に購入したハンドクリームだった。  使いかけのハンドクリームのキャップを開けると、それを逆様にしてチューブ状の本体を握り締める。 「……ひっ!」  昂大から喉の奥に絡まった悲鳴が上がる。 「や、や……っ! 冷た……!」  尾骶骨の少し上の方に、なにか冷たいものをつけられた。その冷たさが昂って火照った身体には異様に冷たく感じて、酷く不愉快な心地になる。  なに、と軽く怯える昂大の視界に、中身のほとんどを搾り出されたハンドクリームのチューブが放り出される。  それがなんなのか理解しようと固まった昂大の臀部を、ぬるりととろみのあるジェル状のクリームが滑り落ちていく。その気色悪い感覚に、また小さな悲鳴が零れた。  そんな昂大のことを見下ろしながら、匡一の手がクリームを掬い上げる。 「……っ、あ……!」  指先が、丸い双丘の合い間の窄まりに触れる。その刹那に、昂大の身体が硬直した。  きつく締まった窄まりを開かせようと、ぬちぬちと音を立ててクリーム塗れの匡一の指先が擦る。  その指先から逃げようと、昂大は僅かに身を捩った。けれど、それ以上は逃げられない。達かされたあとで、手足に思うように力が入らないのだ。 「あっ……、兄、貴……! それ、や……ッ」  碌な抵抗も出来ない昂大の華奢な身体がぶるぶると震えている。なにをされるのかという恐怖と、ペニス同様、他人に触られることなど稀な器官に触れられている羞恥心からだろう。  やめてくれ、と涙に潤んだチョコレート色の瞳が見つめてくる。  匡一はその瞳を見下ろしながら、薄く微笑み――指先をぐっと押しつけた。  昂大の唇から声にならないような喘ぎが零れた。  ハンドクリームを纏わりつかせた指先が、暴かれることを拒んでいた蕾を無理矢理拓かせたのだ。昂大の身体が竦み上がる。 「力を抜けよ、昂大……」 「い、や……だぁ……」  肛門からなにかが入って来ている。出て行くのではなく、入って来ているというその感覚が、昂大を怯えさせた。  匡一はそんな昂大の様子を見ていて、ゾクリとした。  投げ出していたハンドクリームのチューブを取り、残りを後蕾に埋まる指に振り掛ける。そのままゆっくりと引き抜き、もう一度中へゆっくりと戻した。昂大の身体が更に力む。  いやだ、やめろ、やめてくれ、と昂大から微かな声が零れる。大きな声は出ないらしく、僅かに届くくらいの小ささだ。それが必死に呪文のように繰り返している。  ああ、と匡一は薄っすらと笑みを浮かべた。  怯えて、震えて、涙を溢れさせる昂大――なんて可愛らしいのだろう。  いつものように悪態を吐くでもなく、嫌悪の表情を浮かべて睨みつけてくるでもなく、生意気なことを垂れているわけでもなく、ただただ匡一の与える行為に怯えている。小動物のように震えながら、少女のようなか弱さで怯えているのだ。  クリームを直腸の中に押し込むように、匡一はゆっくりと指先を注挿させる。程よく潤滑剤となったクリームの纏わりついた指は、だんだんとスムーズに動くようになっていく。同時に速度が増し、緩慢だった動きが速度を上げていく。  そんなことをされている昂大は堪ったものではない。肛門からせり上がってくる疼痛と不快さに唇を噛み締め、苦しげな呻き声を零すばかりだ。 「昂大」  そんな弟の名前を呼ぶ。その声音が恍惚とした色を帯びる。  自由にならない故に抵抗も出来ず、ただ必死に逃れられない屈辱と苦痛に耐えている――本当に、なんて可愛らしいのだろう。  匡一は自分の求めていたものに気づいた。  ただ昂大と身体を繋げたかったわけではなかったのだ。  こうして昂大を組み敷き、泣いている顔を見たかったのだ。無理矢理に犯してやりたかったのだ。  自分の中にこんなにも凶暴な欲望が眠っていたとは、匡一自身も気づかなかった。今までずっと、昂大のことは可愛い可愛い弟だと思っていた。その感情が一般的な兄弟のものよりは異常だという認識はあったが、ここまで暴力的で狂気を帯びたものだとは思わなかった。  けれど、その狂気を止めるつもりはなかった。
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