まるで夢のようだ

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まるで夢のようだ

 挿れやすいように脚を開かせて軽く持ち上げると、蕩けたハンドクリームがいやらしく流れ出し、ヒクつく窄まりが匡一(きょういち)を誘うようだ。匡一は唇を舐めた。  昂大(たかひろ)の唇から呻き声が零れる。 「力、抜けって……」  先端部分が触れて少し進んだだけで、そのあとの張り出した部分が拒まれる。きつく締め上げてそれ以上侵入させまいと、暴挙を拒む。  けれど、散々拓いたのだ。中に留まるハンドクリームの残滓が手伝い、匡一は弟の中へと入っていく。  昂大は仰け反った。初めて体験するその圧迫感と不快感に、全身が震えて強張った。  匡一は硬直する弟の頬に口づけ、優しく耳朶を吸う。吐息を吹きかけて耳殻を舌先でなぞれば、昂大の身体が僅かに跳ね、一瞬だけ緊張がほどけた。  その瞬間を見逃さず、ぐっと素早く腰を進める。 「……っぅあ、あ……ッ!」  身体を中心から引き裂かれるのではないかというような激痛が襲ってきて、昂大は苦痛に喘いだ。  きつく締め上げてくる肉筒の圧迫感に、匡一も息を詰める。このまま喰い千切られそうだ。 「タカ……力、抜けって」 「おまえ、こそ……それ……抜……」 「それは出来ない相談だな」  無理だ、と冷たく言い放つと、昂大は絶望と同時に悔しげに表情を歪めた。自分ではたいした抵抗も出来ないから、為されるがままなのだ。そうなると、匡一からやめない限り、この苦痛はまだ続くことになる。  締め上げられて自分も苦しい匡一は、痛みから意識を逸らさせてやろうとして、昂大のペニスに手を伸ばし――そうして、思わず口許を笑みに緩める。 「嫌がっている割りには、気持ちよかったみたいだな」  痛みと不快感から萎えてしまっているかと思った昂大のペニスは、ぴんとその頭を持ち上げていた。あまつさえ、その鈴口からとろとろと蜜を零しているではないか。  嘘、と昂大が双眸を瞠った。 「俺が嘘をつく道理はないだろう? ほら」  簡単に指が回ってしまう小さな性器を握り込むと、当人は小さく喘いで戦慄いた。  やめろ、とか細い声が上がる。 「可愛いなあ、お前は」  必死に抵抗しようとする昂大を見下ろし、微笑んでしまう。  嫌がるなら徹底的に責めてやりたい。緩やかに手を上下させ、ペニスを扱くように滑らせた。同時に先程散々責め倒した乳首も抓み上げ、指の腹で転がすようにして撫で摩る。  数回それらをしてやっただけで、昂大の幼い性器はピクンと跳ねて更に勃ち上がった。 「や、やだぁ……あに、き……!」 「擦られるの気持ちいいだろう?」 「いやだ、やだぁ……!」 「ほら。何処が感じるのか言ってみろ。兄ちゃんがシてやるから」 「やあぁ!」  手を上下させながら、執拗に先端を嬲る。ぐりぐりと指先で鈴口の弄られ、昂大はわけがわからなくなった。  そういう年頃なのだから、オナニーの経験くらいはある。けれど、自分でこんな触り方はしたことはない。ちょっとエッチなグラビアページを見て、触ってみるくらいだ。  一度()かされたばかりだ。少し時間が経ったとはいえ、まだ身体の奥に余韻は十分に残っていて、幼い昂大は敏感すぎるくらいに刺激を感じ取っている。そうなると、再び高められるのにそう時間はいらなかった。  いやだ、イきたくない、と昂大は思った。兄の手によって二度も果てさせられるなんて、冗談ではない。  嫌々と首を振り、兄の愛撫から逃れようとする。けれど、楔を打ち込まれた身体は少し動くだけで痛みが奔り、それどころではない。 「やっ……、あっ、あぁーッ!」  声変わり前の昂大の喉から甲高い悲鳴が上がり、幼い性器から精が迸る。  飛び出した粘液は匡一の胸から腹にかけて飛び散り、青臭い匂いを放った。  達した余韻で昂大の肢体が弛緩する。その隙を逃さず、匡一は弟の肛門に埋まった肉茎を注挿させた。 「ひっ、や……!」  突然襲ってきた衝撃に、昂大は仰け反る。  熱い肉塊に内臓を抉られる。身体を引き裂かれるような痛みが襲いかかって来て、けれど同時に頭の中が真っ白になるような感覚もあって、相反するそのふたつが昂大の全身を滅茶苦茶にしていく。  先程よりはだいぶマシになった。けれど、依然として締めつけはきつく、匡一は息苦しさと同時にすぐにも達してしまいそうな心地になっていた。  ベッドの軋む音と肌を打ち付けあう音が響く。その合い間をぐちゅぐちゅという粘液の掻き回される卑猥な音が混じり、弟と繋がっていることを実感した匡一が恍惚とし、兄に陵辱されているという昂大を聴覚からも辱めた。  昂大、と匡一の声が零れる。 「感じるか、タカ……俺達、今、セックスしてる」  なあ、と囁く声が、この上なく甘く優しい。  その声を聞いた昂大が、涙をボロボロと溢れさせた。 「昂大……タカ……気持ちよくしてやるから、何処がいいか言え。ほら」  ぐっと腰を突き上げ、力強く内壁を擦り上げ――ひどく感じる部分を刺激した。昂大は仰け反る。その唇から声にならない悲鳴が零れた。 「ここか? 今のとこ、気持ちよかったのか?」  尋ねるように囁き、もう一度突き上げて擦る。昂大は堪らなかった。  匡一は唇を薄く舐め、微笑んだ。 「やっ、あッ、あー……ッ!」  昂大の善がり声を聞きながら、匡一は何度もそこを突き上げた。 「そこ、やだ……っ!」 「嫌じゃないだろう。こんなに精液溢れさせて」  止め処なく溢れ出ている精液に粘つくペニスを握り、匡一は微笑んだ。 「やめ……! それ、ダ、メぇ……!」  ペニスと秘穴を同時に責められるだなど、堪ったものではない。昂大はまた果てた。  若いなぁ、と匡一が笑う。 「俺、まだ達ってないのに……何度も先に達くなよ」  ずるいぞ、と耳元で囁かれたかと思うと、そこをぬるりと舐められ、身体が竦み上がったところを再び突き上げられる。  ズッズッと内臓を抉られる痛みと、いつの間にか湧き上がってきた快楽に、ああ、と昂大は涙を零した。  その涙に匡一が唇を寄せる。舌先で頬を拭い、目尻から溢れる雫を舐め取る。その温もりを感じながら揺さ振られる身体に、昂大は理解した。  自分はこの兄に、すべてを陥落させられてしまったのだ、と。  この行為に性的な快楽を感じてしまった。男を――況してや、実の兄とのセックスに対してだ。もう昂大は残っていた抵抗の心を捨て去るしかなかった。  その昂大の諦めの感情に気づいたのか、匡一は僅かに体勢を変え、昂大の片脚を肩に担ぐと、そのまま腰を打ちつけた。先程より深くまで兄の楔を感じる昂大はまた喘いだ。 「やっ、あ……!」  自由になる指先で必死にシーツを手繰り寄せ、きつく握り締める。そうしてなにかに縋りついていないと、何処か遠い処に行ってしまいそうな、そんな不安が昂大を襲った。 「やだ、やだぁ……ああぁッ!」  切羽詰った声が昂大の喉を突く。 「またイきそうなのか、タカ?」 「ち、がうぅ、ぅ……ぃきた、なん……ないぃ……!」  優しい声音の問いかけに必死に否定するが、ビクビクと震える身体はその答えが嘘であることと、何度目かわからない限界を迎えようとしているのが一目瞭然だ。  いいよ、と匡一は笑った。 「今度は俺も()くから、一緒に……な?」  そう囁いて汗の流れ伝うこめかみの辺りに口づけると、昂大がどんなに足掻いても解けなかった手首の拘束を片手で器用に解き、その手を己の首筋に導く。堪らず昂大はそこへ両手を回してしがみついた。  幼い頃に戻ったようだ、と匡一は思った。  子供の頃の昂大は、よくこうやって匡一の首筋にしがみつき泣きじゃくっていた。匡一が少しでも傍を離れることを厭い、見つけると必ずこうして抱きついてきたものだ。もう離さないぞ、と言わんばかりに。 「…………ぃ、ちゃ……」  懐かしく、可愛らしい行為に思わず口許を綻ばせると、昂大が微かになにかを囁いた。  その小さな声を拾い、匡一は瞠目する。  兄ちゃん――昂大はそう言ったのだ。  いつもの生意気な口調の『兄貴』ではなく、幼い頃から慣れ親しんだ『兄ちゃん』という呼び名だ。 「にぃ、ちゃん」  昂大がもう一度囁く。今度は更にはっきりと聞き取れた。  幼い頃の癖はなかなか抜けないというが、もう何年も使われないでいた呼称だ。それが無意識に出ている――恐らく昂大は、クラスメイト達の手前、見栄を張って生意気な呼び方を使っていたのだろう。それを家でも使っていたが、心の中では幼い頃のまま兄ちゃんと呼び続けていたのかも知れない。 (ああ――…)  匡一は胸の奥がきゅうっと締めつけられるような愛しさでいっぱいになり、下腹部が更に熱を帯びるのを感じた。 「昂大……お前って奴は……」  なんと可愛い子なのだろうか。  匡一を嫌っているような言動をしていて、反抗的で生意気な態度を取っていても、根幹では幼い頃と変わらない。匡一のことを大好きだった昂大のままなのだ。  堪らず昂大の後ろ髪を掴み引き寄せ、僅かに仰向かせると、喘ぐ唇に唇を重ねた。 「ん、ぁ……にぃ……」  性急に絡められる舌に、苦しい、と昂大が零す。  そうして唇を塞いだままベッドに押しつけ、再び腰を打ちつけた。昂大の唇からくぐもった声が零れる。  ぷはっと息をついて唇を離してやるが、その呼吸が整う前に激しく腰を打ちつける。早まっていく呼吸に合わせるように、お互いの汗が飛び散り、交じり合う。 「タカ……タカ……」 「にぃ、ちゃ……あ、んッ、ん」  肌が擦れて熱が混ざり合い、お互いを求め合う声が重なる。もう限界だった。  一緒に、と匡一が囁いた。うん、と昂大が頷く。  昂大が最後に見たのは、眉をひそめて頬を上気させた兄が、頬についた精液を指先で拭ったところだった。  匡一は昂大が蕩けそうな目でうっとりと見つめてきて、唾液で艶めかしく光る唇が微笑んで眠りに落ちるまでの様子を具に見ていた。  呼吸を落ち着けながら、吐精して萎えたペニスを昂大の中から抜き出す。弛緩した恥穴からドロリと精液が溢れ出し、昂大の臀部と太腿を伝い落ちて行った。その中に緋色のものが混じる。  血だ、と匡一は目を細めた。  当たり前だ。挿入するときにかなり乱暴にしたのだから、裂けていてもなんら不思議はない。 「処女みたい、だな……」  匡一が童貞を捨てた相手は同級生で、お互いが初めてだった。  彼女は初めての行為で処女膜を引き裂かれることに怯えていたし、その痛みに涙してもいた。そして、破瓜の血を滴らせ――まるで今の昂大と同じ状況だった。 (昂大の初めての相手は、俺……)  彼女のときには申し訳なさと初体験による興奮しか感じなかったが、今は途轍もなく満たされた気持ちを感じていた。  このときを何年夢見てきただろう。その間に何人かの女子と付き合い、身体の関係も何度か持った。それでも、今のような気持ちになったことはなかった。  意識を失っても微かに笑みを浮かべたままの昂大の顔を見下ろし、そっとその頬に手を伸ばす。 「俺は今、幸せだよ。昂大」  お前もかい、という問いかけに、昂大が微かに吐息を零した。
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