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「私のこの力は生まれつきで、小さい時からむやみに遊ぶものではないと教えられました。
もし今を苦しんでいる人がいたら、生きていく勇気を失いそうになってる人がいたら、その人に別の生き方を伝えて支えてあげるように。
ーーそのための力なんだと」
「ねぇおばあちゃん、おばあちゃん大変!」
「どうした、みずほ」
「しゅんくん、大きくなったらやきゅうせんしゅになるよ!」
「野球選手……?」
「うん、かけっこもぜーんぜん速くないのに。
なんで? みずほのほうがウンと速いよ!」
祖母春江は7歳になるみずほの手のひらをさすり、その顔をじーっと見つめた。
「なぁ、みずほ……。あんたもおばあちゃんと一緒だ。同類だ」
春江はみずほの顔を確認するように、目を放さずに見ていた。
「どうるい?」
「お前の父親には受け継がれなかったがな。
そうか。おまえに来たか」
ファッファッファッ……と春江は笑った。
「みずほももう小学校の1年生になったんだ。
幼稚園のころとは違う。しっかり自分のことを考えてもいい年齢だ。
ほれ、このばあちゃんの手を握ってみ」
みずほは出された手に自分の手を乗せると、ギュッと強く握り返された。
「あ……!」
「わかるか、みずほ。それがお前の力なんだ。見えただろ、ばあちゃんのこの先が。楽しそうに笑ってるか?
80過ぎてからの見分じゃ、おそらくこの先いちばん楽しい時期が映ったに違いない。その後はもう見えないかもしれんがの」
みずほは信じられなかった。いま見えたものが、来年のオリンピック……、テレビで一緒に観ている場面なんて。
ーーもしかしておばあちゃん、オリンピック終わったあと、いなくなっちゃうんじゃ……。
「1つ言っておく。この力はむやみに使うな。教えるな。このさき生きるのが辛いという人に出会ったら……、悩みを抱えてどうしようもない人に出会ったら、おまえはその人の話を聞いてやるといい。いいな?
ばあちゃんでさえ、この力はおまえの両親には言ってない。同じ力を持つ者だけが知ることが出来るんだよ、いいね」
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