はるのあらし

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ゆきの友達は満足そうに帰っていった。 結局、あの決まってんだろが口癖の不良の本名がわからなかった。 別に、知らなくても困らない。 僕は、ゆきが、好きだ。 好きになってみせる。 これで良かったのだろうか。 これで良かったのだろう。 後悔なんてしてはいけなくて。 空虚さに心が満たされていく。 嘘じゃなくて。 偽りじゃなくて。 なのに、罪悪感が僕を蝕む。 ゆきが、あと一ヶ月。 幸せに過ごすための思い込み。 嘘なんて言葉は使いたくなくて。 偽りなんて言葉では表せなくて。 これで、良かったんだ。 これで、良くなきゃ、だめなんだ。 四月三日。 結局、ゆきは来なかった。 もうすぐ日付が変わって四日になる。 明日は遊園地に行くんだから早く寝ないといけないのに、僕はなぜだか寝られずにいた。 僕は、どうすれば良かったのだろう。 僕は、ゆきをどう思っているのだろう。 僕は、ゆきに何をしてあげられるのだろう。 カーテンを閉めて電気を消して。 ベッドに入って寝られずに。 真っ暗な中で何をして何を考えればいいのだろう。 天井をじっと見て。 いつの間にか、僕は寝ていた。 四月四日。 今日は久しぶりに母さんに起こされた。 「今日はゆきちゃんと出かけるんでしょ?さっさと起きなさいよ」 起こされたのではなく、叩き起こされた。 まだぼんやりする頭で手と口を動かして朝食を食べる。 そしてその後は、急いで身仕度をして家を出る。 待ち合わせに十分ほど遅れてしまった。 待ち合わせと言っても、ゆきが現状一人暮らしをしている隣の家の前だけど。 「ゆき、ごめん!」 「まこ、実は、遊園地が臨時休園したって!」 「はい、ダウト」 「な、なんでそう思うの?」 「ほんとに休園したなら泣いてるでしょ」 「り、リベンジしてやる!」 今日も元気に嘘をつくゆきにほっとしていた。 「ゆき、早く行こうよ」 「後から来たのに偉そうだよー」 バスと電車を乗り継いでT遊園地に着いた。 結構広くて、平日だというのに人も多い。 チケット売り場でチケットを買って、少し並んで遊園地に入る。 「ゆき、この遊園地、久しぶりだね」 「確かに、えーといつ以来だっけ?」 「小学生の頃はよく来たでしょ」 「あ、あの頃は若かった……」 「十三歳が何言ってんだか」 そんなことを話しながら僕とゆきはこの遊園地でいちばん速く高く、絶叫が絶え間なく響くジェットコースターの前まで来た。 「ゆき、やっぱり最初は」 「もちろんこれだよね!」 僕とゆきはまた叫び声が聞こえるジェットコースターに並んだ。
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