はるのあらし

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「ゆき、そろそろ帰るか」 「え、もう?」 「もう五時過ぎてるし、帰るのに一時間かかるでしょ」 「まこの時計はさっき壊したんだよ!」 「はい、ダウト。それに人の腕時計壊しちゃダメでしょ」 そんなことを言いながらもゆきは僕と遊園地を出る。 子供二人の危険性がわかったのか、もしくは単に考えることがめんどくさくなったのか。 僕は後者である可能性が高いと思う。 電車に乗って、バスに乗って家に着いた。 「じゃあね、ゆき」 「まこー、また明日!」 そんな言葉をかわして僕とゆきは家に帰った。 早くて短い、時間。 遅くて長い、一瞬。 「母さん、ただいまー」 ゆきとの日々が残りどれくらいかなんて、考えたくなかった。 四月五日。 春休みも残り五日を切った。 「まこ、おっはよー、雪女のゆきちゃんだよ!」 「じゃあ、雪を降らせてみてよ」 「う……、た、体調が?悪いから」 「はい、ダウト。雪女なんて嘘、すぐバレるよ」 「だ、だって……」 そこまで言ってゆきは黙ってしまった。 きっと「だってわたしはそんなすごい嘘考えられないもん」とかそんなことだったのだろう。 「それで、ゆき、何の用なんだ?」 「用がなきゃ来ちゃだめ?」 うるうる、と。 そんな目で見つめられた僕は狼狽えた。 だって見た目美少女なんだもん。 「べ、別にいいけど。あ、プリン食べるか?」 「うん、食べる!」 ゆきは一転、元気になってリビングに来た。 「ゆき、焼きプリンと普通のプリン、どっちがいい?」 「もちろん焼きプリンだよ!」 「はいはい」 冷蔵庫から自家製の焼きプリン二個を取り出す。 スプーンも二つ持って、お盆に乗せてリビングに持っていきテーブルに並べる。 「おいひい」 「飲み込んでから喋りなよ」 確かに母さん特製の焼きプリンは美味しいけれど。 「それで、今日は勉強しに来たのか?」 ゆきは、僕に言われた通り 「うむ」 と飲み込んでから言った。 「宿題はもう終わったんじゃなかったっけ」 「一個忘れてた」 「僕と同じようにやったんだから全部終わってるはずだけど」 「せんせーからほしゅーだって」 あ。 いくらテストで百点をとっても普段の授業中の態度がひどいから補習になったのだろう。 中学だから宿題の増加という形で。 「何の宿題なんだ?」 「ほーてーしき」 方程式か。 本気を出さないゆきがいちばん嫌いなやつだ。 「ゆき、教えてやるから頑張ろうな」 「うん、頑張る!」 プリンを美味しそうに食べるゆきは何だか幼くて。 ゆきが小さい妹に見えてきた、今日この頃。
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