あらしのあと

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「というわけで、みんな今年はよろしくお願いします。教科書にしっかり名前を書いてくるように」 一組の担任は二十代後半くらいの女の先生になった。 今年からこの学校に来た美術の先生らしい。 「では、解散です!」 先生の一言でみんな友達とばらばらに帰っていく。 さあ、僕も帰るか。 そう思って立ち上がってリュックを背負う。 その時、僕を呼ぶ声が聞こえた。 「おい、真川誠。ちょっと来い」 聞いたことのある不良の声が聞こえた。 瀬戸柚季だ。 「あれ、瀬戸さんどうし」 「来いっつってんのが聞こえねーのか、それとも引きずってほしいのかお前」 「ついていきます」 僕は、瀬戸さんに従い教室を出た。 というか従わざるおえなかった。 あれって脅しに入るよね? 教室を出て、屋上につながる階段に連れてこられた。 でも、屋上へは鍵がかかっていて行けないはずだ。 そんなことを言う勇気のない僕は瀬戸さんの後に従い階段のいちばん上まで登る。 瀬戸さんはポケットに手をつっこみ鍵を取り出す。 鍵って、まさか? その鍵は屋上へ行くためのドアに差し込まれて。 ガチャ、という音がしてドアが開いた。 僕は察する。 社長令嬢の権力半端ないって。 「瀬戸さん、屋上に入っちゃいけないんじゃ」 僕は勇気を振り絞ってそう言った。 「あ?お前がそんなこと言う権利あんの?」 ゴザイマセン。 勇気を振り絞ったせいで勇気が一ミリも残っていない僕は恐々として言った。 ほんとに瀬戸さんは二組でよかった。 こんな人が同じクラスなんて、恐ろしすぎて想像したくない。 というか、瀬戸さん前より恐ろしくなってない? 新しい学年になってのキャラチェンジですか。 こういうベクトルにはチェンジしないでください。 そんな僕の思いを露知らず、いや知られないほうが僕に身の危険が及ばないのかもしれないが、知らない瀬戸さんは屋上にポツンと置かれたベンチに座った。 誰も使わない屋上になぜベンチが? そんな僕の疑問を察したのか瀬戸さんは言った。 「昔、屋上を開放してた頃の名残だよ」 比較的優しい口調で。 ゆきもだけど、瀬戸さんも喋らなければ可愛いのに。 社長令嬢なんだしモテると思うんだけどな。 と考えて、やっぱり、と考え直した。 瀬戸さんはそういうことを気にしなそうだ。 義理と任侠の世界で生きていそう。 「で、お前はゆきと付き合ったらしーな」 瀬戸さんはもとの圧をかけすぎた声で言った。 カツアゲでもされるのかと思った僕は拍子抜けした。 「お前、別れろ」 ……え?
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