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あれあれ?
この前は僕とゆきが付き合ったらいいという方向だったのではなかったのでしょうか。
「瀬戸さん、どうしてそんなことを」
「聞くのかって?お前にんなこと聞く権利はねーっつってんのがわかんねーのかコラ」
瀬戸さんはそう言うと僕の右手を持った。
そしてポケットから取り出した手錠で僕の右手とベンチを繋いだ。
手錠?
繋いだ?
「別れるっつーまで帰さねーから」
瀬戸さんは鍵をまたポケットから取り出した。
もちろん、僕には届かない位置で。
どうして学校に手錠を持ってるのかとかそんな手錠をいつも持ち歩いているのかとか疑問が吹っ飛ぶくらいのパワーワードだ。
誰か教室で連れ去られた僕を心配して先生に言ってくれますように。
「せ、先生が来たらどうするの……?」
僕は生まれたての小鹿みたいに声を震わせて言った。
「丸め込むに決まってんだろーが」
一刀両断。
「じゃあえーとどうして別れてほしいの……?」
僕はおずおずおずおずおずおずと言った。
おずおずとしすぎていると我ながら思う。
「最初はゆきのやつに幸せになってほしいと思ったが」
瀬戸さんがわりと普通に答えてくれた。
今年でいちばん感動したかもしれない。
「やっぱゆきとお前が二人で登校とかあり得ねーぶっ殺す!と思っただよ決まってんだろ」
決まってない、ぶっ殺すとか決まってほしくない。
「だ、だから別れろって?」
「そーだよ決まってんだろ」
「……瀬戸さんってゆきのことどう思ってるの?」
前に僕が言われたことと同じことを言った。
いや、まさかとは思うけど。
「友達じゃなくて好きだよ何か文句あんのかゴラァ」
怖い。
そして。
「家族愛とか友愛じゃなくて?」
「なんだよレズだよなんか文句あんのかなくてもぶん殴る!」
やっぱそうか。
そして理不尽。
避けなければ。
頭の中が軽く混乱する。
でも、瀬戸さんのグーパンチをギリギリで避ける。
グーパンチはだめだ。
「せっ瀬戸さん、落ち着こう」
「あ?お前に落ち着かせられるほどあたしはヤワじゃねーっつーの!」
あれれー、おっかしいなー。
落ち着かせようと思ったらヒートアップさせてしまった。
僕は手錠で繋がれているのでベンチの周りしか動けない。
瀬戸さんにどんどん追い詰められる。
その時。
開けっ放しだったドアから声がした。
「ゆず、止めて!」
「え、ゆき?」
瀬戸さんの動きが止まる。
「わたしはゆずにそんなことしてほしくない」
そう言って屋上に現れたのは。
ゆきだった。
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