あらしのあと

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「ゆき……!」 僕はほっとした。 「実は、わたしは正義の味方ゆきパンマンなのです!」 ほっとした僕が馬鹿だった。 ゆきはこういう幼馴染みなのだった。 「ゆき、瀬戸さんから手錠の鍵もらってくれない?」 「ててて手錠!?ついにまこも嘘をつくように?」 「違うほんとだから早く」 まだ固まっている瀬戸さんのポケットからゆきが鍵を見つけて僕の手錠に差し込む。 回すと、手錠が外れた。 「ゆき、ありがとう」 「どういたしまして!」 「ちょっと、ゆき、邪魔しないで!これはゆきとあたしの幸せな未来を築くために決まってんだろ」 素晴らしい勘違いだ。 瀬戸さんがようやく復活した。 「瀬戸さん、別にゆきはそんなこと望んでないよ」 「あ?望んでるに決まってんだろーが」 ものすごくすごみの効いた顔で睨まれた。 ここはゆきに任せるしかないけど肝心のゆきは手錠の物珍しさに目をきらきらさせている。 僕の命にも興味を持ってくれ、ゆきパンマン。 「ゆき、手錠から一旦離れて」 「あ、まこごめん。手錠って実物初めて見たから」 「それは僕もだよ。というか、瀬戸さんをどうにかして」 「ゆずはいい子だから平気だよ」 「いい子じゃない!いい子は手錠を持ち歩かない!」 「そこイチャイチャしてんじゃねーよ」 イチャイチャはしてないけどね? という言葉をギリギリで飲み込む。 僕も自分の命は惜しい。 二年生になったばかりで入院とかも避けたい。 それにやっとゆきにも瀬戸さんが本性を見せた。 これでようやくゆきもわかってくれるはず。 「ゆず、どうしたの?演技の練習?」 なかった。 そうだ、ゆきには頼ってはいけなかった。 「瀬戸さん、ゆきの言い分も利かないかな?」 「あ?……まあ、確かにな。ゆきがわたしを愛してるって決まってんだから、いいだろう」 「ゆき、僕と別れたくない、よな?」 ゆきは黙る。 まさかまさかの展開になりませんように。 「当ったり前じゃん!まことは一緒にいるよ!」 よかった。 そして恥ずかしい。 「チッ。なら仕方ねー。ゆき、諦めねーからな」 瀬戸さんはそんな捨て台詞をのこして屋上を去った。 僕がまだ生きていることに驚く。 「ゆき、助かった。ありが……どうしたの?」 「まこ、そんなこと聞くなんてどうしたの?わたし、嫌いになった?」 うるうる。 ゆきはそんな目をして僕を見て聞いた。 「そんなわけないよ。ゆきが大好きだよ」 「ほんと?嬉しい!」 ゆきが僕に抱きつきながら言う。 こういうのを、幸せだと言うのだろうか。
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