はるのあらし

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「まこ、何これわかんない」 「ん、どこ?……あ、ここはまず累乗から解いて、」 「るいじょー? 何ですかそれは?」 「……それなのに一夜漬けで学年トップクラスなのは真面目にやってる僕からしたら笑うしかないね」 ゆきは、やれば驚くほどできる子。 その道で五年努力してきた人を一時間の練習で軽々と越えることができる。 その代わり、普段は全くといっていいほどしない。 やればできるけどしないという言い訳が通用する珍しい人類なのだ、こいつは。 「一夜漬けだけしかしないのは最強だよ!」 「ゆき以外がやったら赤点決定だけどな」 「そんなもんかな?」 「そんなもんだよ」 ゆきと一緒に春休みの宿題を粛々とやっていると、突然ゆきが叫んだ。 お腹の虫とともに。 「お腹へった。まこ、何か作っていい?」 「いいけど、食べられるもので」 「失礼な、わたし、まこよりも料理上手だからね?」 「そ、そうだったのか……!!」 「そんな心底驚かないで傷つく」 「ごめんごめん」 そんな軽口を叩きながら僕たちは一階へ行った。 数十分後、ゆきは美味しそうな焼きそばを作った。 「ん、これ美味しいな」 「でしょでしょ、最高傑作だよ!」 ふふん、とゆきは胸を張って自慢する。 「ゆき、料理できたんだな」 「そりゃ、八百年生きてますから」 「八百比丘尼か?」 「いえす。人魚の肉も美味しかったよ!」 ゆきは親指をぐー!とつき出す。 ゆきの仕草は何だか子供っぽいな、と思いつつ、 「はい、ダウト」 と言った。 大袈裟に両手両膝を床につけて、ゆきは 「がーん」 と言った。 とってもわかりやすく落ち込んでいるので、僕はわざと声をかけずに黙々と焼きそばを食べた。 ……それにしても、この焼きそば美味しい。 ゆきは今だにあのままのポーズを続けている。 健気だなあ、と思いつつ僕は焼きそばを食べる。 すると。 「美少女な幼馴染みが真横で落ち込んでいるのに何でまこは焼きそばを食べてんの!」 「焼きそばが美味しいから」 僕は即答する。 「え……? わたしが作った焼きそばそんなに美味しい? 美少女の幼馴染みを無視するくらいに?」 「勿論」 「喜んでいいのか怒っていいのかわからない」 そう言いつつも、ゆきは焼きそばをまた食べ始めたので、ゆきの機嫌は回復したと思う。 「で、ゆき、累乗の話だけど」 「うわーやめてー焼きそばを味わわせてー」 そんな風に僕とゆきの少し嘘の混じった日常は続いていく。 と、思っていた。
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