あらしのあと

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あらしのあと

四月九日。 僕たち二年生にとっては始業式。 これから入ってくる新一年生にとっては入学式の日。 入学式の日までギリギリ桜は咲いていた。 少し葉っぱは混じっているけれど。 「ゆき、おはよう」 「おっはよー、まこ、実はわたしこりん星に……」 「はい、ダウト」 「なぜバレた!?」 「こりん星は日本人ならすぐに嘘だとわかる」 そんなことを喋りながら歩く。 僕とゆきは一緒に通うことになった。 ゆきからの要望だ。 「そういえば、瀬戸さんはいいの?」 ゆきといつも一緒に登校していたはずだ。 「いいのいいの、喜んでくれてるから!」 そんな気もしないわけではなかった。 「付き合ってんなら登下校が一緒なのは決まってんだろ!」とか言いそうだし。 瀬戸さんがそう言ったか、ゆきに聞こうと思ったがやめた。 ゆきに瀬戸さんと会ったことがバレてしまう。 高校生二人とすれ違った。 「ブレザーうらやましーなー」 「ゆき、セーラー服は貴重だぞ」 「まこ、親みたいなこと言わないで!」 そんなことを話したら、後ろで高校生たちがくすくすと笑うのが聞こえた。 あのブレザーは、近所の高校の制服だった。 部活が盛んでこの中学から行く人も多い。 「ゆきはあの高校に行きたいのか?」 言ってから気づいた。 ゆきが余命一ヶ月だから、高校に行けないことに。 「あ、ゆき、ごめん」 「ううん。まこが悪いわけじゃないから」 気づかわなかった僕が悪い。 「ゆき、えーと、あ、桜が綺麗だな」 「あ、うん。綺麗だね、桜」 気まずい話をそらす。 まあ、散り際で葉っぱがちょっとあっても桜は綺麗だった。 「まこ、桜の下には死体があるんだって。この桜の近くでも行方不明の人が……」 「はい、ダウト」 「嘘じゃなかったら怖いよね」 綺麗な桜の前でこんな話をしていては桜に怒られてしまう。 そして自分が言ったことでゆきは怖がっている。 「ゆき、埋まってないから安心しなよ」 「そ、そうだよね」 そんなことを話していると学校に着いた。 市立宇宮(うみや)東中学校。 成績は平均、体育系の部活も活躍しているのはバスケ部くらい、不良も優等生もクラスに一人ずつ。 そんな学校だ。 いじめもないけどリーダーもいない。 教頭はカツラで五月蝿いけど校長が近所の優しいおじいちゃんみたいな人だ。 特別よくはないけど悪くもないというか。 入学式の看板が置かれた校門を通る。 昇降口の前に各自クラスの紙が貼られている。 この学校は毎年クラス替えをする。 といっても三クラスしかないけど。 僕とゆきは……。 「僕、一組」 「わたし、二組」 「はい、ダウト」 「そうだ!わたしは一組だー!」 そうして僕とゆきは結局、今年も同じクラスになった。
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