はるのあらし

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はるのあらし

青春は真面目に送ることが一番だ。 正直で実直で真面目な僕は、そう思っている。 僕、真川誠(しんかわまこと)はごく普通のもうすぐ中学二年生になる奴。 面白みには欠けるが、真面目。 せいぜいこれが僕の評価だろう。 もしかしたらクラスメートに認識すらされていない可能性だってあるのだ。 三月二十八日。 春休み、ものすごく暇な僕は自分の部屋で勉強中。 がり勉だと言われるかもしれないけど、僕の勉強する理由は受験とかではなく暇だからなのだ。 だからがり勉などではない、絶対に。 そんな僕には少し変わった幼馴染みがいる。 「誠、ゆきちゃんが来たわよ! あと、お母さんこれから出かけるからお昼ご飯は勝手に食べてね」 母の声が聞こえた。 幼馴染みが来たらしい。 こういうのを噂をすれば影、と言うのだろうか。 どたどたと階段を駆け上がる音がしたと思ったら、僕の部屋のドアが大きく開け放たれた。 「まこー、おはよ。実は、わたし吸血鬼になっちゃったの!」 ゆきは僕をまこと呼ぶ。 幼稚園の頃からそう呼ぶなと言っているのだが、全くもって効果がない。 「なら何で昼間に出歩けているんだ?」 「ぐっ……」 幼馴染み、四月朔日(わたぬき)ゆき。 いわゆる虚言癖とでも言うのか、突拍子もない嘘をつく、嘘つきの同い年の少女。 というか、美少女。 なのだが、いかんせん嘘つきのため全くモテない。 黙っていれば美少女なのに、と思わなくもない。 「ひ、昼間でも、その、日光が当たる間に瞬間瞬間で、その回復しているというか。あ、まだ半吸血鬼ということで!」 「設定雑だな」 「雑じゃないもん! 今思い出したんだよ!」 「はい、ダウト」 「ばれちゃったかてへぺろ(はーと)」 そんな感じの会話をしてから、僕はゆきにりんごジュースを出す。 ちなみに僕はコーヒー。 ゆきはコーヒーが苦手なのだ。 「で、今日はゆき何の用なんだ?」 昨日は確か道端で絞殺魔に会ったとか言っていたな。 勿論、完全に嘘なのだが。 「実はね、昨日の夜、図書館で借りた本を開けたら異世界に……」 「はい、ダウト」 「ちょっと待ってよ、早くない? 結構考えたのに。根拠はあるの? 根拠は!」 「ゆきが図書館に行くはずがない」 「わ、わたしだってたまには行くもん!」 「はい、ダウト」 「覚えてろよ、まこ!」 「はいはい。で、本当の用は?」 ゆきはこちらを軽く睨んでジュースを飲んで言った。 「べ、勉強教えてください……」 「いいよ、ノートは?」 「……あ、リュック忘れた」 「今すぐ取ってきなさい」 「はーい」 ゆきはあわただしく戻っていった。 といっても、隣の家なのだが。 僕はゆきが戻ってくるまで、家の隣の公園に咲く桜を眺めていた。
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