写真の中の写真

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写真の中の写真

泉が入ってくる。 教室に。 「ちわーっす」 「ちわーっす」 と僕は言った。 「じゃねえ! お前また留年決まったんだって」 泉は20歳だ。 それなのにまだ高校生をやっている。 ところが泉は、どう見ても高校生、いや中学生ぐらいにしか見えないぐらい、 幼く見えた。 まるで彼女だけ時間が止まっているみたいだ。 ふと我に帰ると、僕は夢中になって高校時代のアルバムを眺めていたことを思い出した。 「入り込んでいた」と僕は言った。 そして、写真の中の泉が、高校生のままなのは、当たり前のことだ。 中学生のように小さな体格をしていたのは本当だが。 泉は今どうしているだろう。 あれから一度も会っていないので、僕の中の泉が20歳なのに高校生のままだ。 パシャッ。 シャッターを切る音。 「よどみ」 「バレたか」 妹のよどみはよく人の写真を勝手に撮って、変な加工をして送りつけてくる。 「今すぐ消しなさい」 「はあい」   「何の写真を見ているの?」 と泉に言われて我に返った。 「入り込んでいた」と僕は言った。  喫茶店で、待ち合わせをしながらスマホの画像フォルダを整理していたのである。  その時ふと目に止まった写真に見入っていた。  泉は僕のスマホを覗き込む。 「わ! 変な顔。誰これ」 「前に、妹のよどみに撮られたんだ」  と僕は答えた。 「……つまり、あの時やっぱり消さなかったんだな」 「アルバムを見ているわね……え、私を見ていたの?」 「違うよ」 と僕はすぐにスマホを消した。 「ねえ、それよりも。これからどこへ行く?」 と泉が言った。 「デート」 パシャッ。 僕と泉が音をした方を向いたら、よどみが面白そうに笑っていた。 よくもまあ懲りないね。 「よどみ……」 「だってお兄ちゃんに恋人ができるなんて、歴史的瞬間を残さないわけには いかないよ」 「消しなさい」 「はあい」 とニヤニヤして言った。
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