親友

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風呂から上がっても、クッションに顔を半分埋めて、膝を曲げて座っている響。 その姿からは、機嫌が直ってないのが一目瞭然でわかる。 「まだむくれてんのか。」 「、、、、。」 無視かよ。 はぁっとため息がこぼれる。 ったく、どーしたもんだか。 「おまえなぁ。よく考えてみろ。人の気持ちなんてな、他人がどーこー出来るもんじゃないんだって。」 濡れた髪をタオルで乾かしながら、響の近くに行き、しゃがみこむ。 もう一度諭してみるが。 「、、、、。」 むくれた顔は、全くこっちを見ようともしない。 「あのなぁ。おまえの気持ちもわかるけどよ、浅葱も28の男なんだぞ?。そう簡単に、うまくいくわけないだろ。しかも、相手大学生だろ?。普通に考えて、無理があるって。」 俺の言葉に、やっと反応がある。 「、、、そんなのわかんないじゃん。」 わかるだろ。 いや、まだ19だからわからないのか? 経験を積んできた俺だからわかる話なのか? 俺も困惑してしまう。 「短大とか大学のノリで進めていい話じゃないだろ。」 俺がそう言うと、また響の地雷を踏んだらしい。 「なに短大のノリって!コウにはそう見えてるの?どうせ、私は子供だよ!コウみたいに大人じゃないよ!。どうせ、私は何もわかってないよ!」 、、、ふぅっ、、。 もう何を言ってもダメか。 「わかったよ。そんなに協力したいんなら、もうおまえの好きにすればいいだろ。」 半ば諦めの気持ちでそう言ったが、響の機嫌は全く直らない。 「好きにするよ!コウには迷惑かけないから!それでいいんでしょ??。もういい!」 そう言って、響はスクッと立ち上がり、しゃがみこむ俺をすり抜けて、さっさと着替えを持って風呂場へと向かったんだ。 はぁ、、、。 なんだよ。 自分が大人だと言いたいわけじゃない。 響を子供扱いしているわけでもない。 うまく伝わんねえな。 年の差が原因なのか? 経験値が違うからなのか? どうも埋められない響との価値観の違いを考えるが、答えは出ない。 響の中にある、本当の気持ちに、気づいてやれていないのか? わかっているつもりでいたが、そうじゃないのか?? 滅多にない喧嘩。 こんな言い合いをする事も珍しい。 響があんなに興奮して怒る姿も、今までそんなに見た事はない。 何がそんなに気に障ったんだ? 何をそんなに怒ることがあるんだ? 浅葱の事だけじゃなさそうだが、よくわからない。 進まない就職活動に焦っているのか? ちゃんと言ってくれないとわからない。 響は気持ちを溜め込むところがある。 昔からそうだ。 何か悩みを抱えているのか? 「わかんねぇな。」 タバコを吸いながら、悶々とする気持ちを抱える。 せっかく会っているのに、泊まりに来ているのに、なんで、こんな喧嘩になるんだよ、、、。 ふぅ、、、。 ため息がこぼれる。 まぁ、響も風呂に入って、少し冷静になるだろう。 少し頭を冷やして、考えればいい。 人の気持ちは、誰かがどうこう出来るものじゃない。 紹介したところで、うまくいけばいいが、そんな簡単な話じゃないだろう。 社会人を長くやっていれば、大学生との恋愛が困難なことくらい、容易に想像できる。 高校生との恋愛が困難だったように、、、。 浅葱は高校生から浪人生まで、響と同じ年代の生徒を相手に仕事をしている。 大学生は、きっと、幼く見えることだろう。 俺と響のようなものだ。 恋愛に発展する要素を考えてはみるけれど、見当たらない。 俺はかなりの例外だと自分でも思っているから、尚更だ。 浅葱は俺と同じ28の男だ。 少なくとも、将来のことを考えたりもするだろう。 うまくいかなかったら、みんなが傷つく事になるだろう。 そうなったら、一番心を痛めるのは、響だ。 人の気持ちを繋げようとするのは、簡単な事じゃないんだ。 俺は諭したまでのこと。 だが、それが、こんな喧嘩に発展するとは思わなかった。 さて、どーしたものか。 「どーすっかな。」 シャワーの音を聞きながら、考えを巡らせる。 こんなに近くにいるのに、こんな雰囲気のまま、響と一晩過ごすのは避けたいところだ。 響と一緒にいれる週末。 喧嘩なんてしたくない。 「俺が折れるしかねぇか。」 結局、色々考えたところで、俺の答えはもう出ている。
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